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天声人語

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2012年8月12日(日)付

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 大志を抱け、と言うわりには「青年の向こう見ず」に世間は寛大ではない。堀江謙一さんがヨットで太平洋単独横断を成したときもそうだった。日本では快挙を讃(たた)えるより、無謀だの密航だのと難じる声が目立った。いつの時代も、出る杭は打たれる▼正規の出国に手を尽くしたが、冒険航海にパスポートは出なかった。やむなく夜の港からこっそり出航する。94日の航海ののち、米サンフランシスコに到着して、きょうで50年になる▼米国では密航扱いどころか大歓迎された。つられるように国内の空気も変わる。一躍、時の人になったのは戦後昭和史の伝説だ。冒険や探検を大学などの権威筋が牛耳っていた時代、それとは無縁な一青年の「大志」は、新しい挑戦となって羽ばたいた▼『太平洋ひとりぼっち』を読み直すと、ミッドウェーあたりの記述が印象深い。「夕陽(ゆうひ)がからだをいっぱいに包む。長い黙祷(もくとう)を捧げました。……多くの海の先輩たちが散っていったところなのだ。……ぼくはいま花束を持っていない。許してください」。戦争の記憶はまだ色濃かった▼振り返るとその年には、国産旅客機YS11が初飛行し、世界最大のタンカー日章丸が進水している。高度成長の矛盾を抱えながらも青年期の勢いがこの国にあった▼73歳になった堀江さんは、4年前にもハワイ―日本を単独で航海した。なお現役の冒険家は、特別なことはせずに記念日を過ごすそうだ。青年の気を忘れぬ人である。懐旧に浸るのはまだ早いらしい。


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