一〜二人乗りの超小型車が実用化に向け動きだした。環境にやさしく、高齢者や子育て家庭の移動手段、観光地の散策や配達業務などに想定されている。まずは安全基準などを早く打ち出すべきだ。
旗振り役の国土交通省は「自動車よりコンパクトで小回りが利き、環境性能にすぐれ、地域の手軽な移動手段となる一〜二人乗り程度の車両」と定義、五〇ccのミニバイク(原付き)と軽自動車の中間に当たる乗り物といえる。電気自動車を想定し、公共交通機関の乏しい地域の日常的な足や、さまざまな業務用と期待している。
これまで一人用は原付きやミニカーと呼ばれる原付き四輪、免許不要で歩道を走る電動車いすが一定のニーズを満たしてきた。
しかし、二人乗り以上の三、四輪車となると、衝突安全性能を定めた軽自動車の規格が必要で、それを満たすには価格が高くなってしまう難点があった。そこで安全基準を緩和して手ごろな車両を、とうたったのが超小型車である。
欧州ではすでに基準を定め、細い路地が入り組んだイタリアなどで普及しつつあるという。これに対し、日本では二〇一〇年度から社会実験が行われ、今秋から公道を使った走行が全国の手を挙げた自治体などで始まる。実用化は一五年度以降の見込みと先はまだまだ長い。
高齢化やいわゆる「買い物難民」問題、若者のクルマ離れや環境負荷の低減といったさまざまな社会情勢を考えたとき、超小型車が果たす役割は小さくない。ただし、政府の役割は、安全基準づくりや普及のための規制緩和など環境整備に徹し、民間の創意工夫に任せるべきである。
現時点では、肝心の自動車メーカーの多くが、試作段階で二の足を踏んでいる状況だ。現状で想定される六十万円前後の価格では、相当な需要がなければ採算ラインにのらないためである。
安全基準を引き下げてメーカーの低価格化を後押しするのか、税金面など保有コストは既存のクルマと比較して軽くするのか、補助金などの購入支援策はどうか。
何より大事なのは安全の確保である。社会実験では「後続車からあおられる危険を感じた」「他の車両から確認しにくい」と不安の声も出た。大型車と一緒に走らせた場合の危険性も指摘される。安全と利便性を両立できるのか慎重な検討を望みたい。
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