以前、小欄で「プレッシャーはほんとに強いのう。どこの国の選手かえ?」と勘違いしたお年寄りがいたという笑い話を紹介したことがある。ひと昔前の日本人のスポーツ選手には、オリンピックや国際大会の大舞台で、重圧に力を出し切れない印象がつきまとった▼それがどうだろう。プレッシャーを逆にバネにできる選手が多くなった。ロンドン五輪ではメダルのラッシュ。特に女子選手の活躍が目覚ましい。福原愛選手が引っ張る卓球女子団体や女子バドミントンは初のメダル獲得だ▼「前畑頑張れ」で知られる兵藤(旧姓前畑)秀子さんが、日本人女性として初の金メダル(女子200メートル平泳ぎ)を取ったのは、一九三六年八月十一日のベルリン五輪だった▼二位の選手と激しい競り合いだったことも気付かないほど、死に物狂いで水をかき、けり続けたという。決勝は日本時間の午前零時すぎからだった▼ラジオで実況中継したNHKのアナウンサーは中継開始予定時刻の午前零時を過ぎると、「スイッチを切らないでください」という言葉から放送を始めた。眠らずにラジオにかじりついた人たちは前畑の奮闘に喝采した▼ロンドン五輪の女子サッカー決勝は十日未明。テレビ観戦は睡魔との闘いだ。女性初の金メダル獲得から七十六年になる。プレッシャーとは無縁の動きが、眠気を吹き飛ばしてくれるだろう。