HTTP/1.1 200 OK Date: Mon, 06 Aug 2012 01:21:55 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Connection: close Age: 0 東京新聞: <とにかく戦争はこの間すんだんだね。そのくせ俺たちは戦争…:社説・コラム(TOKYO Web)
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【コラム】

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 <とにかく戦争はこの間すんだんだね。そのくせ俺たちは戦争のために死んで行くんだぜ。戦争がすんでもまだ戦争のために現にこうやって死んで行くんだね。そいつが不思議なんだ>。原爆症で死期を悟った男性が、医師に語りかけている▼原民喜とともに、最も早い時期に自らの被爆体験を小説にした作家大田洋子の『屍(しかばね)の街』の中で最も印象に残る場面だ。戦争は終わったのになぜ死ぬのか。素朴な疑問に胸を打たれる▼被爆後、元気だった人も、斑点が肌に現れると死期が近い。見えない放射能の脅威は、福島第一原発の事故を経験した私たちが直面している問題そのものだ▼戦前、私小説などを書く流行作家だった大田は被爆を機に作風が一変した。故郷の惨状を徹底して書き、原爆しか書けない作家という烙印(らくいん)を押された▼代表作になった『屍の街』は一九四八年十一月に出版されたが、占領軍の検閲を考慮し一部を削除。完全版の刊行まで被爆から五年近くかかった。書く責任を果たして死にたいと、生死をさまよいながら障子紙やちり紙に書きなぐった。構成など考える余裕はなく、「きわめて部分的な体験しか書いていない」と後悔もした▼小さな物語かもしれないが、体験者でなければ絶対に書けない真実が宿っている。女性作家の使命感は確かに作品を歴史に刻んだ。きょうは六十七回目の広島原爆忌。

 

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