東京電力の女性社員殺害事件の再審開始決定を東京高裁はあらためて支持し、検察の異議を退けた。再審公判は長引かせてはならず、犯人とされたネパール人男性に早く無罪の声を届けるべきだ。
六月に出た再審開始決定から、二カ月足らずで、これを全面的に支持する高裁の決定が出たことは、一刻も早く裁判をやり直し、しかも無罪を出すというメッセージに他ならない。
再審は確定的だ。今、求められているのは、強盗殺人罪で無期懲役の確定判決を受けたネパール人男性の名誉回復である。
そもそも再審開始に異議を申し立てた検察こそ問題である。被害者の遺体に残っていた精液について、捜査当局は長い間、DNA型は調べていなかった。
再審を求める過程で、弁護側がその証拠開示を求めた。そして、三年八カ月も経てから、検察側はDNA型を調べ、「第三者」の存在が明らかになったのだ。
高裁の二つの刑事部は、この第三者が「犯人である可能性を示している」と明確に述べた。ネパール人男性には「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」にあたるとも判断している。新たな証拠評価に疑義の余地はなかろう。
これは速やかに無罪を言い渡さないと、著しく正義に反する。検察もそれを肝に銘じるべきだ。
大阪地検の証拠改ざん事件のときも、厚生労働省の元局長が裁判で「無罪」を言い渡されるまで、検察は撤退しなかった。明らかなでっち上げ事件なのに、公訴を取り消すことも、無罪の論告もしなかった。だから、最高検の検証結果で、「引き返す勇気」を再発防止策に挙げたのだ。
新たに作った「検察の理念」にも「冤罪(えんざい)防止」や「有罪判決の獲得のみを目的とすることのない公正な裁判」を掲げた。東電女性殺害事件で異議を唱えては、「理念」も単なるお題目にすぎないのかと疑われる。「引き返す勇気」で再審公判に臨んでほしい。
犯人とされた男性は、約十五年間も身柄を拘束されていた。これほどの人権侵害はない。「再審無罪」は見えている。どうして冤罪を生んだのか。捜査や証拠評価のどこに問題があったのかを徹底的に検証せねばならない。
一九九七年に起きた事件は、殺人の時効が撤廃され、犯人追及は可能だ。捜査を断念せず、真犯人の可能性のある第三者を捜しだし、真相を解明してほしい。
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