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2012年7月30日(月)付

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国会を包囲する人々―民主主義を鍛え直そう

 夕暮れの国会議事堂を、無数の灯(ともしび)が取り囲んだ。

 きのう、市民グループの呼びかけであった「国会大包囲」。脱原発を求める人々が、キャンドルやペンライトを手に「再稼働反対」を連呼した。

 ここ数カ月、毎週金曜の夕方には、首相官邸と国会の前でも何万という人々が抗議の声をあげている。

 1960年の安保闘争から半世紀。これほどの大群衆が、政治に「ノー」を突きつけたことはなかった。

 「もの言わぬ国民」による異議申し立て。3・11と福島原発事故がもたらした驚くべき変化である。

■原発再稼働で拡大

 官邸前の抗議行動は、3月末に300人ほどで始まった。それが、6月に政府が大飯原発の再稼働を決めた前後から、みるみる膨らんだ。

 「大包囲」に来た高知県四万十市の自営業の女性(60)は、再稼働を表明した野田首相の記者会見に憤る。「国民の安心のために決断したという言葉が許せない。正直に金もうけのためといえばいいのに」

 再稼働を急ぐ政府や電力会社は「本当のこと」を語っていない――。話を聞いた参加者にほぼ共通する思いだ。

 まず、「安全だ」という説明が信じられない。

 当然だろう。事故原因も判然とせず、大飯では活断層の存在も疑われている。首相が「事故を防止できる体制は整っている」と力んでも、真に受ける人がどれほどいるのか。

 「電気が足りなくなる」という説明にも疑問の目を向ける。

 足りない、足りないと言いながら、昨冬もこの夏も余裕があるではないか。再稼働の本当の理由は、電力会社の経営を守るためではないのか。

 参加者の中には、原発ゼロを実現するにはある程度時間がかかると考える人もいる。

 もし首相が「脱原発」の立場を明確にし、危険度の高い原発から順次廃炉にする行程を示していたら、ここまで怒りが燃え広がることはなかったのではないか。

■根強い体制不信

 ただ、問題は野田政権のふるまいだけにとどまらない。抗議の根っこにあるのは、間接民主主義のあり方に対する強い不信感である。

 兵庫県姫路市の女性(77)は「民主主義は民の声を聴く政治のはず。声が届かないのはファッショだ」と語った。

 こんな声は抗議の場のあちこちで聴かれる。

 有権者が、選挙で選んだ自分たちの代表(議員)を通じて政策を実現する。その間接民主主義の回路が機能せず、自分たちの声が政治に届かない。

 そんないらだちが、人々を直接民主主義的な行動に駆り立てているのではないか。

 そして、これを決定づけたのが原発事故だった。

 これは天災ではなく、電力会社や政府による人災だ。メルトダウンの事実も、放射性物質の飛散情報もすぐに公表しなかった。そんな政府の情報をもとに報道するメディアも信用できない――。

 政治不信にとどまらず、新聞やテレビまで「体制側」とみなして批判の目を向ける。それほど不信の根は深い。

■補完しあう関係築け

 直接民主主義の流れは、今後も強まるだろう。

 安保闘争のような大規模な政治行動は、高度経済成長とともに70年代以降、影を潜めた。

 いまは右肩下がりの時代。手にしていたはずの豊かさも、安全までも、ポロポロとこぼれ落ちる。さまざまなテーマで、政治の責任を追及する声がやむことはあるまい。

 そんなとき、官邸の壁を隔て、「体制」と「民衆」が相互不信に凝り固まって対峙(たいじ)していては何も生まれない。

 直接民主主義は、選挙と選挙の間の民意を映す方法としては有効だ。しかし、その声を政策に落とし込むのはあくまでも政党や政治家の役割である。

 国民との間の詰まったパイプを修繕し、新しい回路をつくることで相互補完の関係を築く。

 一連の抗議行動を呼びかけた市民グループのリーダーの一人は「大規模な抗議行動で、数を可視化することで議員が動き出した」と語る。

 抗議の人波が膨れあがるのにあわせて、与野党の議員が行動に加わるようになった。地方議員らが「原発の即時全廃」を掲げて「緑の党」を立ち上げた。

 中には選挙目当ての便乗組もいるだろうが、人々の声が政治を動かしつつあるのは確かだ。

 抗議行動の主催者らは、官邸側に面会を申し入れているという。この際、老壮青の参加者も招き入れて、首相みずから話し合ってはどうか。

 それを手始めに、不信に動かされる「負の民主主義」を、信頼と対話に基づく「正の民主主義」に鍛え直していくのだ。

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