この人に、この名あり。正岡子規の妹・律こそは、律の名にふさわしい。そう思わせる逸話を、東京・根岸の子規庵で知った▼兄の死の翌年、律は共立女子職業学校で学び始める。三十歳を超えての再出発だ。やがて母校の教師となったが、勤続十年を前に辞職。しばらくして復職した。自分は勤続十年表彰を受けるには値しないとの思いからだったという。自分が社会にどう役立っているか、よくよく厳しく考える人だったのだろう▼東証一部上場の売り上げ上位百社の七割が、「過労死ライン」とされる月八十時間以上の残業を認めているそうだ。多い社は月二百時間。経営側は円高など国内産業に逆風が吹く中、競争力を維持するにはやむを得ないとの立場だという▼過労死ラインは国の通達であって、超えても違法ではない。ただ、日本を代表する企業が、過労死を防ぐための目安を無視するかのような現状は、どうか▼英国では上場企業を、パブリック・リミテッド・カンパニーと呼ぶ。直訳すれば、公的制限会社。株主を一般に募れば経営情報も公にしなくてはならない。多くの人が経営にモノ申すことにもなる。「公に律される会社」とは言い得て妙だ▼この際残業の上限を法律で定めるべきだ、との論議も出てこよう。だが、まずは、社会的影響力のある大手が社員の命を守るために、自らを律してほしい。