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朝日新聞の天声人語をもっと読む大学入試問題に非常に多くつかわれる朝日新聞の天声人語。読んだり書きうつしたりすることで、国語や小論文に必要な論理性を身につけることが出来ます。
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没して8年になる詩人の石垣りんさんは、高等小学校を出て銀行に入った。一家を支えて働きながら詩を書いていた。「月給袋」という詩は、こんな書き出しだ▼〈縦二十糎(センチ)/横十四糎/茶褐色の封筒は月に一回、給料日に受け取る。/一月(ひとつき)の労働を秤(はかり)にかけた、その重みに見合う厚味(あつみ)で/ぐっと私の生活に均衡をあたえる/分銅(ふんどう)のような何枚かの紙幣と硬貨……〉。報酬とは、注ぎ込んだ時間と労力の価値を表す「分銅」に他ならない▼ならば、この分銅はあまりに軽い。全国平均で737円という最低賃金(時給)である。まじめに働いても生活保護水準を下回ることもある。これでは意欲もなえよう。人というものを買い叩(たた)きすぎていないか▼最低賃金は都道府県ごとに定められ、毎年夏に厚労省の審議会で目安を決める。それが平均でたった7円の引き上げにとどまった。1日8時間で56円の増では、雀(すずめ)の涙にもならない▼貧困問題に詳しい湯浅誠さんに聞くと、そもそも最低賃金は家計を助けるパートやアルバイトを想定していた。しかし時代は変わり、これで生計を立てている人は少なくない。いわば「小遣いの基準を賃金にあてているようなもの」だという▼企業が悪い、と叫ぶつもりはない。だが資源に恵まれない日本の最大の資源は、額に汗する「人」ではなかったか。千分の1秒の金融・証券取引で巨富を手にする仕組みの一方、大勢が「1時間7円」に泣く図はいびつだ。格差を縮める政治の意志は、どこにある。