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朝日新聞の天声人語をもっと読む大学入試問題に非常に多くつかわれる朝日新聞の天声人語。読んだり書きうつしたりすることで、国語や小論文に必要な論理性を身につけることが出来ます。
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草冠(くさかんむり)に秋と書いて「萩」なのだが、ご近所の塀を越えて伸びているハギが、はや二つ三つ紫の花をつけ始めた。隣にはまだ白いクチナシの残り花があるのに、気の早いことだ。今年はどんな天候かな、と偵察に来た、ハギの花の先遣隊かも知れない▼公園にはキキョウがゆれている。こちらも秋の花のイメージなのに、ずいぶんせっかちだ。調べると早咲きの種類らしい。梅雨どきに咲くので「五月雨桔梗(さみだれききょう)」と呼ばれたりするそうだ。薄い紫の花は涼しげで、炎暑をふっと遠ざけてくれる▼この夏、拙宅で鉢植えの夕顔を育てている。ご記憶の方もおいでだろう、昨夏、小欄で夜顔を夕顔と間違えて書き、おわびをした。ヒルガオ科の夜顔は、広く「夕顔」の通り名で呼ばれるが、夕顔ではない。罪ほろぼしのつもりで、本物のウリ科の夕顔の種をまいた▼先月の末、夕闇に白く咲いているのを見つけた。夜ごとに花を開いたが、もう花期は終わって小さな実をいくつかつけている。実はごろりと大きく育って、干瓢(かんぴょう)の原料になるそうだ▼〈心あてにそれかとぞ見る白露の光添へたる夕顔の花〉。源氏物語のよく知られた歌はヒロインのひとり、夕顔が詠んだ。光源氏との逢瀬(おうせ)のあと死んでしまうはかなさが、ごろりの実はともかく、花の姿にはよく似合う▼そして夕顔のあとは、朝顔が開きだした。「乗り切る」という動詞がふさわしい炎暑の季節。萩をゆらす秋風が吹くまで、朝露の光る一輪に英気をもらう幸いも、またよしである。