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朝日新聞の天声人語をもっと読む大学入試問題に非常に多くつかわれる朝日新聞の天声人語。読んだり書きうつしたりすることで、国語や小論文に必要な論理性を身につけることが出来ます。
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英語のカバーは「見せかけ」の意味でも使われる。覆という漢字にも「包み隠す」の含意がある。原発事故の後始末で、これらを地でいく「被曝(ひばく)隠し」が発覚した。収束作業に携わる建設会社の役員が、線量計を鉛のカバーで覆い、被曝線量を低く装うよう作業員に指示していた▼彼らは、法定の被曝量に達するとしばらく働けない。現場を仕切る役員は、渋る作業員をこう説得したという。「自分で自分の線量守んないと、1年間原発で生活していけない」。5人ほどが手製カバーをつけて働いたらしい▼福島の作業環境は、命がけという意味で戦場だ。線量のごまかしは、10発の敵弾を浴びた兵士に、「5発ということにして戦い続けてくれ」と言うに等しい。流れた血は戻らないのに▼高線量の現場は「金になる」といわれる。作業員が線量を使い果たせば人手を欠き、せっかくの仕事が逃げると案じたか。愚かしい話である。守るべきは命であり、線量計や会社ではない▼だが、この役員を責めても始まらない。あけすけな不正の根底には、下請けの弱い立場があるからだ。これまでに放射線を浴びた2万数千人の多くは、東京電力の社員ではない。無理や不都合を下へ、外へと押しやる悪習が変わらぬ限り、安全は守れまい▼現場の苦闘は、40年かかるという廃炉まで続く。作業員たちが、いたずらに命を削ることなく暮らせるよう、危険に見合う待遇が必須である。事故以来、この国は彼らの頑張りに守られているのだから。