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朝日新聞社説をもっと読む大学入試問題に非常に多くつかわれる朝日新聞の社説。読んだり書きうつしたりすることで、国語や小論文に必要な論理性を身につけることが出来ます。
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政府・民主党や自民、公明両党が、「防災」を掲げて公共事業の拡充へと動き始めた。東日本大震災は、防災・減災対策の重要性をあらためて突きつけた。高度成長期に集中的に整えられ[記事全文]
検察のトップが交代した。不祥事を受けてゼロからの出直しを迫られるなか、その先頭に立ってきた笠間治雄検事総長が退き、後任に東京高検検事長の小津博司氏が就いた。[記事全文]
政府・民主党や自民、公明両党が、「防災」を掲げて公共事業の拡充へと動き始めた。
東日本大震災は、防災・減災対策の重要性をあらためて突きつけた。高度成長期に集中的に整えられた社会基盤は、更新期を迎えてもいる。
対策は待ったなしである。
一方で国の財政は火の車だ。「防災」に便乗したバラマキは許されない。社会保障と税の一体改革で消費増税の道筋がついたいまこそ、予算の使い道を吟味しなければならない。
一体改革で足並みをそろえた民自公3党が、そんなギリギリの検討をへて公共投資を唱えているとは、とても思えない。
まず政府・民主党である。国土交通省は今年度から5年間の社会資本整備重点計画の案を示した。68の項目のうち半分近くが防災関連だが、どれを優先するのかメリハリを欠く。
重点計画のとりまとめはこれで3回目。道路や空港など九つの長期計画ごとに事業費を盛り込む従来の方式が「予算の無駄遣いや硬直化につながる」として、03年に変更された。
「コンクリートから人へ」を掲げた民主党政権は、重点計画を根本から見直すとしていたが、絞り込む姿勢に乏しい。むしろ、「防災」を予算計上の口実にしようとしていないか。
自民党が国会に提出した国土強靱(きょうじん)化基本法案は「先祖返り」ともいえる内容だ。
基本理念として「国土の均衡ある発展」「多極分散型国土」「複数国土軸の形成」といったことばが並ぶ。60年代から90年代に5次にわたってつくられた全国総合開発計画(全総)のキーワードだ。「3年で15兆円」「10年で200兆円」と、事業費の目標も掲げている。
全総の策定や事業費の明示がバラマキの一因になった。その反省から、自民党政権時代に方針転換したのではなかったか。
公明党が骨子をまとめた法案も、ソフト面の対策の必要性に触れながら「10年で100兆円」とうたっている。
バラマキ合戦の根っこは、3党による消費増税法案の修正協議にある。増税で「財政による機動的対応」が可能になるとし、「成長戦略や防災・減災に役立つ分野に資金を重点的に配分する」と法案の付則に盛り込んだ。このままでは、公共事業のための増税になりかねない。
公共投資を増やせば、目先の経済成長率は高まる。近づく国政選挙への対策のつもりでもあるのだろう。しかし、そうした発想が財政赤字の膨張を招いた歴史を忘れてもらっては困る。
検察のトップが交代した。
不祥事を受けてゼロからの出直しを迫られるなか、その先頭に立ってきた笠間治雄検事総長が退き、後任に東京高検検事長の小津博司氏が就いた。
検察改革の旗を改めて高く掲げ、再生への足取りを確かなものにしなければならない。
笠間氏は、証拠改ざん事件などの責任をとって辞職した大林宏氏を引き継ぎ、2010年12月に総長になった。以来、改革の道筋をつけることに追われた1年7カ月だった。
取り調べの様子を録画する範囲を広げる。特捜事件のチェック体制を見直し、独自捜査優先の考えから抜け出す。苦情を受けつける監察指導部を設ける。検察運営に外部識者の声をとりいれる。部下による上司の評価制度を導入する――。うちだした対策は多岐にわたる。
第一線に強い抵抗がある録画や特捜改革がそれなりに進んだのは、その特捜部勤務が長く、現場一筋の検察官人生を送った笠間氏が音頭をとったからこそといえる。折にふれ口にしていた「人間が100人いれば100通りの正義がある」という言葉も、独善に陥りやすい検察組織への戒めとなっただろう。
だが、どの取り組みも緒についたばかりだ。
東京地検の検事が事実と異なる捜査報告書を作成していた問題では、その対応や処分の手ぬるさが、社会の批判を浴びた。
供述頼みの捜査・公判からの脱却をうたう一方で、いざ法廷の検察官に目を転じれば、相変わらず調書によりかかり、調書どおりの判決を得ようという立証活動から抜け出せていない。
染みついた体質は、一朝一夕に変わるものではない。
小津新総長は笠間氏とは対照的に、法務事務次官などを歴任し、もっぱら法務行政で手腕を発揮してきた。改ざん事件が発覚したころの危機感や緊張感がうすれ、揺り戻しが懸念される時期に、かじ取り役を担う。
よりどころとすべきは、昨年秋に制定された「検察の理念」だ。検察官に対し、権限の行使が真に国民の利益にかなうものになっているか、常に問い直すことを求めている。
いまはふつうの人々が刑事裁判に参加し、検察官の捜査や公判での振る舞いをチェックする時代である。内向きの論理や説明はもはや通用しない。
国民の厳しいまなざしを自覚し、国民をおそれ、国民に理解される活動を重ねる。信頼を取り戻す道はほかにない。後戻りはもちろん、足踏みも許されない。トップの覚悟が問われる。