生きていればもう十九歳。あの女の子は、どうしているだろうか。父のマイッシュさんは言っていた。「この子に将来はない」▼イラク南部のサマワ。自衛隊が復興支援をしていた町の病院で、十一歳のボシュラさんに会ったのは、八年前のことだ。父親と一緒に羊を追っていて、不思議なものを見つけた。黄色くてリボンがついていた▼おもちゃかと拾った瞬間、手が吹き飛んだ。娘のベッドの傍らで、父は「娘はいつもお嫁さんになりたいと言っていた。夢はかなうのか」と、うめいていた▼少女の両手を奪ったのはクラスター爆弾の子弾だ。クラスターは英語で花や実の房のこと。一つの大きな房のような爆弾から、何百もの爆弾の実が飛び散る。人間を一度にたくさん殺すのには、実に効率がいい武器だ▼今は、子どもまで無差別に殺傷する兵器として禁止する条約もできた。この爆弾を、シリア政府軍が使った疑いが出ている。亡命したアサド政権の幹部は、軍が反対勢力鎮圧のため、化学兵器を使う恐れがあるとも警告している。シリアの内戦は、大量破壊兵器の使用を心配するところまで来てしまっている▼最悪の軍とは、弱い軍隊ではなく、国民に銃口を向ける軍隊だ。チェチェンやチベットで国民に銃を向けていたロシアと中国が、国連安保理でシリア制裁をかたくなに拒んでいるのは、ただの偶然なのか。