枝野幸男経済産業相が松原仁消費者担当相らと、東京電力家庭向け料金の値上げ幅を8・47%に圧縮することで合意した。人件費削減が柱だが、目ざすべき新たな電力供給の理念が見えてこない。
枝野氏は松原氏、藤村修官房長官との会談後「消費者目線で、より大きな切り込みにつながった」と自賛した。だが、この消費者目線を額面通りには受け取れない。
焦点だった東電全社員の年収削減幅を、東電が申請している22・56%から23・68%へと一段と切り込んだ。日本航空など、公的資金が注入された企業の中では最も削減率が高い。
健康保険料の企業負担割合を60%から世間並みの50%に引き下げ、修繕費の一部も料金原価から削除した。東電の平均10・28%の値上げ申請を2%近く圧縮はしたが、有権者でもある消費者におもねる帳尻合わせにさえ見えてくる。消費者が何より大切だというなら、政治家自らも身をもって汗を流すべきではないか。
最たるものは「資源外交」だ。日本の電力業界は再稼働が見通せない原発に代わって火力発電に依存し、燃料の約七割を占める液化天然ガスを世界最高値で買っている。高値でも自動的に料金に上乗せできる政府お墨付きの原燃料費調整制度があるので痛みはない。
東電は欧州より百万BTU(英国熱量単位)当たり四〜五ドルも高値で買い、昨年度は産ガス国に一兆七千七百億円支払った。枝野氏らは「契約更新時に可能な限り低廉化を」と電力業界に注文をつけたが、微温的にすぎる。東電以外の電力会社も実態は変わらない。
欧州並みなら四千億〜五千億円、シェールガス革命に沸く米国産並みなら七千億円近くも出費が減って値上げ幅を抑え込める。米国は輸出先を自由貿易協定の締結国を条件としているが、そこは日米関係を土台に輸入を実現すべきだ。政治家の出番であり、それこそが消費者目線だろう。
さらに東電の福島、柏崎刈羽原発の十三基すべてが止まり、「脱原発」の状況下にある現実も見据えるべきだ。東電は日本の電力総供給量の三分の一を担っているが、今夏は節電の数値目標を掲げずに済んでいる。
昨年来、企業や家庭などが向き合った節電に支えられての成果であり、原発に頼らない日本の新たな電力供給のモデルが築かれつつある。この教訓を生かし、新たな電力社会の理念を打ち立てることも政治が果たすべき責務だ。
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