「ひどい出来だ。彼は、まったくやる気を見せない」。十二歳のミルン君は通信簿に、こう記された。少年は、のちに名作童話「くまのプーさん」を書き、世界中の子どもたちを喜ばせることになる▼死して三十二年、今なお人々の心を歌で揺さぶり続けるジョン・レノン。学校の先生は、ジョン少年を見捨てていたようだ。「失敗への道を着実に歩んでいる。望みはない」▼英国の名宰相チャーチルは、九歳の時「他の子と、トラブルばかりを起こす」「大変に能力はある。だが、彼には意欲というものがない」と評された。学科もひどく、親がめまいを感じずに見るのは難しい通信簿だ▼そのチャーチルを選挙で破って、首相となり「揺りかごから墓場まで」と称される福祉国家を築いたのが、アトリー。十三歳の時の評価は「彼は物事を考えて、自らの意見を形作る」と上々だが、「うぬぼれが強くて、他人の意見をきちんと聞こうとしない」と、手厳しい言葉も記されている(C・ハーリー編『could do better』)▼きょう、多くの学校で終業式がある。子どもたちは通信簿を手に家に帰ってくる。きっと、ドキドキしている。怒られるんじゃないか、と泣きたい気分の子もいるだろう▼けれど、ミルン君やチャーチル少年を思えば、何てことない。本当の才能を記すには通信簿はあまりに薄っぺらいのだから。