命の不安と闘っている難病患者は多い。公的介護をめぐるある難病の訴訟で、患者側の願いをかなえた判決が出た。現状は行政の運用で差があり、患者の実態や苦痛を見極めた誠実な対応を望む。
判決は和歌山地裁で四月末にあった。筋萎縮性側索硬化症(ALS)の介護サービスの提供時間について、老妻と二人暮らしの七十代男性患者が「一日二十四時間」を求めて和歌山市を訴えていた。
高橋善久裁判長は、十二時間しか認めていなかった市の決定では患者の命に重大な危険が及ぶと指摘。市の「裁量権の逸脱で違法」とし「最低二十一時間は必要」と時間延長を命じた。市の決定は憲法が保障した生存権に反する、と断じたに等しい。
日本ALS協会(本部・東京)や名古屋大の祖父江元・教授によると、ALSの国内患者は八千人余。全身の筋力が衰えて動かなくなっていく。進行がとても速い。発病者の半数が三〜五年で自力呼吸もできなくなり死亡する。
人工呼吸器や胃ろうで延命はできる。「治療法がない今『生きたい』と必死の患者にしてあげられるのは『命をつなぐ』こと」「七割の患者は迷惑をかけるからと、自らの意思で呼吸器を拒む」。現場のそんな声に、暗然とする。
「それでも生きたい」−。そう決意した患者も、しかし、自力で動けない。昼夜を問わずタンの吸引をしないと窒息死する。公的介護の十分な支援を求める理由はそこにある。独り暮らしや老老介護の家庭ならなおさらだ。
ヘルパーの介護時間の決定権は市町村にある。障害者自立支援法と介護保険法を基に、独自の基準をつくる。病状の程度、家庭環境や介護力などから判断する。
ところが表向きと実態は違う。名古屋市は最大二十四時間を認めているが、同じ愛知県で半分に満たない市もある。東京都も二十三区ばらばら。どこも同じだ。「同行者が違うと、とたんに増えた」例もある。自治体の裁量で運用に差が出て公的介護といえるか。
ALSに限った問題ではない。難病は約六千種。うち国から医療費の助成があるのは五十六種。厚生労働省が患者代表も入れた難病対策委員会でさまざまな分野の見直しをしているのはよい。
が、公的介護については患者のための公平さと根拠が欠かせぬ。市町村が介護時間を決めるとき、機械的に「見て」だけなのか、命や意欲をつなごうと「見極めて」なのか、そこを考えてほしい。
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