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朝日新聞の天声人語をもっと読む大学入試問題に非常に多くつかわれる朝日新聞の天声人語。読んだり書きうつしたりすることで、国語や小論文に必要な論理性を身につけることが出来ます。
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赤ちゃんパンダの悲報に、本紙歌壇から写したばかりの一首が浮かんだ。〈幸(さいわ)いと辛(つら)いとう字がこんなにも似ていて茱萸(ぐみ)に茱萸の花咲く〉美原凍子(とうこ)。福島に暮らす作者は、幸と辛の近さを肌で知る。横棒が抜けて暗転、諸行無常である▼とはいえ気は持ちようで、パンダ土産を扱う店長さんの言葉に救われた。「残念の二乗。でも、機会はこれからもある。まずは(母親の)シンシンにお疲れさんと言いたいね」。動物園はこの経験を生かすだろうし、次は双子かもしれない。辛い話も、見方を変えれば幸せの種になる▼思い出したくない過去の一つや二つ、誰にもあろう。心優しき人ほど、悲しいこと悔しいことを引きずるものだが、辛い記憶ばかりため込んでは人生もったいない▼朝日新書の新刊『すりへらない心をつくるシンプルな習慣』(心屋仁之助〈こころや・じんのすけ〉著)に、「嫌な出来事のあとに『おかげで』をつけてみる」という助言があった。あの失敗のおかげで今がある、という風に▼著者いわく「チャンスはピンチの顔をしてやってくる」。その時は辛くても、何かの肥やしになったと後で思える体験は多い。すべては癒やせないにせよ、心の古傷に前向きな意味を与え、一歩を踏み出したい▼しんどい時代、生き抜く糧(かて)を求める人に、あまたの自己啓発本が手を差し伸べる。当方、世渡りに気の利いた助言はできないけれど、同じ読み物として期するところはある。それぞれの「辛」に、細くても横棒を添えられる小文でありたいと。