HTTP/1.1 200 OK Date: Sun, 15 Jul 2012 02:21:51 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Connection: close Age: 0 東京新聞:週のはじめに考える 米世論二分する合憲判決:社説・コラム(TOKYO Web)
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【社説】

週のはじめに考える 米世論二分する合憲判決

 米国民皆保険制度は合憲と判断されましたが、国民の支持はなかなか広がりません。「オバマ政権最大の実績」は、米社会に定着するのでしょうか。

 「地球で最も豊かな国アメリカにあって、家族が病気や事故のために経済的崩壊に追いやられることがあってはならない。最高裁判決はこの基本原則を承認した」

 国民皆保険に道を開くオバマケア(医療保険改革法)に対する連邦最高裁判所の合憲判決を受け、メッセージを発表するオバマ大統領の表情は安堵(あんど)に満ちたものでしたが、口調は抑制的で高揚感は微塵(みじん)も見られませんでした。

◆攻勢に出る共和党

 むしろ、勢いづいて見えるのは共和党のロムニー候補の方です。「この法が雇用を消滅させ、人々と医師の間に政府を介入させる悪法であることに変わりはない。大統領に就任したその日から、この法撤廃のため行動を起こす」

 敗訴した共和党が攻勢に出ている背景には、部分施行後二年を経てなお支持が広がらない国内世論があります。ピュー研究所の調査では、判決を妥当とする人は36%、「妥当ではない」の40%を下回っています。経済への影響を尋ねたギャラップ調査では「悪影響を及ぼす」が46%だったのに対し、「いい影響を及ぼす」は37%止まりでした。 

 共和党陣営は多数を占める下院で撤廃法案を提出、早々に可決されました。現状では成立する見込みはないことを踏まえた上での政治的アピールです。

 ロムニー候補が全米黒人地位向上協会(NAACP)の全国大会にあえて出席し、オバマ批判を展開したのもその一環でしょう。黒人層の九割はオバマ支持といわれていますが、いわばその敵陣でロムニー氏は「大統領に就任したら、オバマケアのような高くつく無用な政策は全て破棄する」と持論を繰り広げました。

◆「オバマ増税法」

 予想どおり激しいブーイングに晒(さら)されましたが、選挙戦では今後一つの実績として喧伝(けんでん)されることでしょう。

 最高裁審理における最大の争点は、国民に医療保険加入を義務づけ、違反した場合に罰金を科す権限が連邦政府にあるか否か、という点でした。

 判決は明快に「ある」との判断を下しましたが、オバマ陣営が主張していた「通商」としてではなく「税金」として、という予想外の根拠でした。敗訴を逆手にとり、現行法をオバマ増税法と批判するキャンペーンに打って出る根拠がここにあります。

 通商条項をめぐる連邦政府と州の権限争いは古くて新しいものです。一九三〇年代の大恐慌下、ルーズベルト大統領が打ち出した農業調整法(AAA)や全国産業復興法(NIRA)に対しても、当初は最高裁による違憲判決が相次いで出されました。

 その多くは連邦政府の通商権限を狭く解釈するものでしたが、最高裁の人事をめぐり相次いだリベラル派判事の任命を経て次第に合憲判決が主流になり、連邦権限を広く解釈する考えが定着した経緯があります。

 ニューディール時代にスタートし、一九六〇年代に高齢者を対象としたメディケア、低所得者を対象としたメディケイドを柱とする公的医療制度に結実した米国の現在の社会保障制度もこの流れの中にあります。

 今回の最高裁判決は、制度自体を合憲とする一方で、連邦政府の通商権限を限定的に解釈した上、「最高裁は法律の是非に関して意見表明するものではない。その判断は国民に留保されている」と明記、司法の政治介入にも慎重な立場を示しました。

 共和党陣営がこの解釈を足掛かりに戦略を立て直そうとしているとしても不思議ではありません。

 皆保険制度の不人気は、建国以来社会の深層に刻まれてきた自助精神に基づくともいわれますが、現実には医師、薬品、保険業界の既得権益に阻まれてきたのが実態です。十年間で七十五兆円相当が見込まれる財源問題も重くのしかかっています。先進福祉国家と称されながら、巨額の財政赤字に呻吟(しんぎん)する西欧諸国の現実も想起されるのでしょう。

◆最終判断は有権者に

 オバマ陣営は、一部先行施行されている部分だけでも、四千六百万人の未保険者中数百万人が恩恵を受けていると成果を強調しています。

 保険加入の義務化が実際に始まるのは二〇一四年からです。西欧諸国並みの皆保険制度の導入を「歴史的な成果」として定着させていくのか、「個人の自由を奪い建国理念に反する」として仕切り直しを試みるのか。国のかたちの選択は、再び有権者に委ねられることになります。

 

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