「ウィンブルドン化」もしくは「ウィンブルドン効果」という言葉がある。英国には、テニスに限らず世界に冠たるスポーツ大会があるのに、英国人選手はなかなか活躍できない▼だから今年のウィンブルドン選手権で、アンディ・マリー選手が英国男子として七十四年ぶりに決勝の舞台に立ったのは国民的快事だった。優勝を逃しても「マリーは試合に負けたが、国民の心をついに勝ち取った」と英紙はたたえた▼ウィンブルドン化にはプラスの効果がある。選手権で活躍するのは外国人選手であっても、世界の注目を集めて、結局は英国に人とお金を呼び込む。その典型がロンドンの金融街シティーだ▼英政府は、規制緩和をいち早く果たして、外国企業・資本の参入を促した。シティーに世界中の資金と情報が集まるようにすることで、英国は長い停滞の時代を脱した。経済のウィンブルドン化は英政府の国策だった▼だが、そのシティーで、八百長が行われていたらしい。世界の金融取引の基準とされる金利を決めるにあたり、英金融大手バークレイズが不正をしていた。疑惑は一行にとどまらずに談合の様相を示し、中央銀行幹部の関与すら疑われている▼判定がその実、地元選手に有利に下されているとしたら、聖地の名声など地に落ちる。ウィンブルドンの輝く芝生が、拝金もぐらに食い荒らされてしまった。