野田佳彦首相が尖閣諸島の国有化方針を表明した。領土保全は政府の仕事であり、東京都よりも国による購入が理にかなう。領有権を主張する中国などとの緊張を避ける知恵の一つと受け止めたい。
沖縄本島西方に位置する尖閣諸島は主に五つの無人島からなる。政府が国有化を検討しているのは魚釣島、南小島、北小島の三島。現在、政府が所有者と一年ごとに賃借契約を結んでおり、領土保全の点から安定的とは言えない。
首相は国有化の理由を「平穏かつ安定的に維持管理する観点から」と説明した。
この三島は今年四月、東京都の石原慎太郎知事が購入を表明し、広く資金を募ったところ寄付金は十三億円以上に達した。年度内にも購入契約を結ぶ方向だという。
尖閣諸島は「国際法上も歴史的にもわが国固有の領土」であり、現に実効支配を続けている。
一方、尖閣諸島の領有権を主張する中国が経済発展とともに海洋権益保護の動きを強め、尖閣周辺で日本の領海を侵犯する事案が増えているのも事実だ。
多額寄付の背景には対中政策が「弱腰」と映る民主党内閣ではなく、対中強硬路線の石原氏に尖閣問題を託したいとの期待がある。
領土保全は国の仕事で、外交は政府の専権事項だ。石原氏も当初から「本当は国が買い上げたらいい」と述べている。政府は尖閣国有化に向けて所有者との交渉に誠意を持って臨むべきだ。
石原氏によれば、所有者は東京都にしか売却しない意向を示している。都が先行して交渉した経緯や国への不信感があるのだろう。石原氏が言うように「取りあえず東京(都)が取得してから、国に渡す」のも次善の策ではないか。
尖閣国有化の報に中国は反発している。民有でも都所有でも主張は変えないだろう。国有化は不要な挑発行動を抑えることに資すると中国側に説明を尽くすべきだ。
肝心なのは、日本が尖閣諸島の実効支配を続けると同時に、周辺海域を「緊張の海」にしないことである。領土領海領空を守る毅然(きぜん)とした態度は必要だが、ナショナリズムが絡む領土問題で必要以上に相手国を刺激するのは逆効果だと双方が肝に銘じねばならない。
田中角栄、周恩来両首相はかつて尖閣問題を棚上げすることで日中国交正常化にこぎ着けた。国交正常化四十周年の節目である今年こそ、外交問題を複雑化させない知恵の歴史に学ぶべきであろう。
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