東京電力の家庭向け料金値上げ申請に対し、経済産業省の専門委員会が燃料費削減などを求める報告書をまとめた。燃料が高ければ料金は高くなる。高値買いを放置してきた政府の責任も重い。
東電が申請した電気の総原価は年間約五兆七千二百億円。経産省の電気料金審査専門委員会は競争発注拡大による修繕費削減などを積み上げたが、削減額は五百億円前後にすぎない。平均10・28%の値上げ申請圧縮は9%台にとどまる見通しだ。
東電は福島第一原発事故で財務状況が窮迫しているとはいえ、値上げには説得力のある説明が欠かせない。だが報告書は釈然としない点が目につく。原価の約四割、二兆四千七百億円に上る燃料費の削減はわずか百億円と極めて少ない。削減努力を怠った揚げ句に値上げでは消費者はたまらない。
福島の事故で火力発電依存が強まり、液化天然ガス(LNG)の購入額が激増した。二〇一一年度は火力発電全体の七割、一兆七千七百億円をLNGの購入に費やした。やむを得ない面もあるが、世界一の高値で輸入している現実に報告書は深く切り込んでいない。
天然ガスは世界的に余剰感が強まり、欧州は百万BTU(英国熱量単位)十二ドル前後で輸入し、韓国はシェールガスの量産が始まった米国と十ドルで輸入契約を結んだ。しかし、日本は中東などから十七ドルの高値買いだ。専門委は「直近の取引実績」に基づいて削減するよう求めたが、甘すぎる。
電力会社は価格が上がれば、その分を自動的に料金に上乗せできる原燃料費調整制度で守られており、高値買いでも経営圧迫の心配がない。一ドルでも安ければ値上げ幅を縮められるのに産ガス国に値下げを迫っているのか疑わしい。
最終結論は枝野幸男経産相らに委ねられたが、その際、東電に交渉能力を飛躍的に高めるよう求めるべきだ。稚拙とさえいえる燃料調達は東電だけでなく、他の九電力も大差ない。複数の輸入企業を一括して交渉し、値下げを執拗(しつよう)に迫る韓国の事例も参考になる。
併せて、専門委は人件費についても「公的資金の注入企業として一層の引き下げを求める強い意見がある」と枝野氏に政治判断を促した。
東電の年収20〜25%削減に対し、同じように公的資金を受けた、りそなホールディングスや日本航空は30%程度引き下げている。消費者の厳しい視線にも耐えられる決断を求めたい。
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