はっといいアイデアが浮かんでも、それを書き留めなかったため、思い出せないという苦い経験を持つ人は多いはずだ。一瞬のひらめきは、消えてしまうのもあっという間である▼ノーベル化学賞受賞者の福井謙一さんは枕元だけではなく、テレビを見る時も、散歩の時も鉛筆とメモ帳を用意していたという。「メモをしないでも覚えているような思いつきに、大したものはないようである。メモをしないと、すぐに忘れてしまうような着想こそ貴重なのである」(『学問の創造』)▼自宅や職場のあちこちに付箋やメモ帳を置き、つまらないアイデアでも、すぐにメモしようと身構えるわが身だ。ノーベル賞学者が地道な努力を重ねていたことを知り、なぜか安心してしまった▼「発明はすべて、苦しまぎれの知恵だ。アイデアは、苦しんでいる人のみに与えられている特典である」と語ったのはホンダ創業者の本田宗一郎さん。苦しまないで生まれる発想など、本物ではないということだ▼苦しんで生まれたアイデアをどう生かすのか。マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏の言葉が興味深い。「自分が出した企画やアイデアを、少なくとも一回は人に笑われるようでなければ、独創的な発想をしているとはいえない」▼人がまねできない仕事をする条件は嘲笑を恐れぬ勇気。どんな仕事にも共通することかもしれない。