香港に対する「一国二制度」が形骸化している。中国は、返還後五十年にわたって高度な自治を保証すると約束した。だが、香港住民による自治よりも、香港の大陸化がどんどん進んでいる。
一九九七年の香港返還から十五年が過ぎた。香港のタクシー運転手は最近、「英語より北京語を話す機会が多い」と話す。
英国植民地だった香港では、広東語や英語が広く使われていた。香港政府の昨年の
人口七百十万人の香港に昨年、中国大陸から二千八百万人余が訪れた。返還当時の約十二倍だ。
中国の経済発展を追い風に、香港は対中ビジネスの窓口や国際金融センターとして成長を続けた。対中依存度は高まるばかりだ。
最近の世論調査によると、過去最高の32%が「中国政府に反感を持つ」と答えた。返還記念日の一日、香港では四十万人が大規模なデモをした。「一党独裁の終結」などを訴えた。
香港の住民は、社会の自由が失われつつあると感じている。三月の香港行政長官の選挙に中国が介入し、親中派の候補が当選した。外交と国防以外に干渉しないとの約束は反古(ほご)にされたのか。
報道の自由の制限も強まっている。かつて「香港情報」という言い方があった。玉石混交ではあるが、権力を恐れぬ取材で中国の内実を鋭くえぐった報道だ。
だが、民主化運動の弾圧を批判してきた月刊誌「九十年代」は返還後に休刊となり、香港メディアには大陸寄りの論調が目立つ。
「一国二制度」は、中国が将来の台湾統一を念頭に考え、香港やマカオで実践した。自由や民主を尊重する「港人治港」(香港人が香港を治める)がなし崩しにされるなら、国際社会はこの社会実験を支持できないだろう。
香港の民主は色あせつつある。それでも中国人は大陸より自由があると感じている。
五年後に、有権者が長官を直接選ぶ普通選挙に移行する。中国は選挙に干渉せず、本当に自由な選挙を実現すべきだ。香港の人たちも、自らの手で本物の民主を取り戻す好機としてほしい。
東洋の真珠といわれた香港。民主主義の後退で、その輝きを失わせてはいけない。
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