<万里の長城は、宇宙から見える唯一の人造物である>。そんな話を聞いた記憶のある人は多いだろう。中国の子どもたちも、そう教えられていた。宇宙船「神舟5号」が二〇〇三年に初飛行から帰還するまでは…▼「長城は見えなかった」。初の有人飛行を成功させ、英雄になった宇宙飛行士が正直に話すと、中国全土に激震が走った。教科書が書き換えられる騒動になり、「神話」は崩れてしまったが、最近、新たな威光が加わった▼中国の国家文物局は、長城の総延長がこれまで公表されていたよりも、約一万二千キロも長い二万一千百九十六キロに上ると発表した。実に約二・四倍になったのは、秦や漢の時代なども含めて科学的に測量した結果だという▼「チャイニーズウオール」(万里の長城)を極めて重要とする世界がある。証券業界だ。増資などの企業情報を扱う引き受け部門と、営業部門との間の情報共有はインサイダー取引の温床になるので、情報を遮断する「壁」を設けるのが業界のルールだ▼野村証券など三大証券で、情報漏えいによるインサイダー取引が相次いで発覚した。野村証券では部長以下、部を挙げて情報を漏らしていたという▼後を絶たないインサイダー取引を、世界は日本市場の不透明性の象徴として冷ややかに見ている。強固で高い「長城」を築かなければ、失った信用は回復できない。