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朝日新聞の天声人語をもっと読む大学入試問題に非常に多くつかわれる朝日新聞の天声人語。読んだり書きうつしたりすることで、国語や小論文に必要な論理性を身につけることが出来ます。
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蝶(ちょう)を花に、花を蝶に見立てる趣向は国を問わないようだ。フランスの詩人ネルヴァルは蝶を「ひらひらとぶ、茎のない花」と表した。俳諧の始祖とされる室町後期の荒木田守武は〈落花枝にかへると見れば胡蝶(こちょう)かな〉と詠んでいる。散る桜が枝に帰ると思ったら、おや、蝶でしたと▼いまの季節なら、蝶を思わせる花はガクアジサイだろうか。小花が集まって咲く縁(ふち)を、蝶が舞うように装飾花が取り囲む。見事な咲きぶりの数株が近所の公園にあって、雨下、青や白の「蝶」が群れ飛ぶさまが目に鮮やかだ▼本物の蝶も負けてはいない。拙宅の鉢植えミカンには、今年も柚子坊(ゆずぼう)がお出ましだ。アゲハチョウの幼虫の芋虫をそう呼ぶ。枝はだいぶ裸にされたが、もう3匹ほどが飛びたった。アゲハには梅雨の晴れ間がよく似合う▼東京に住む関洋さん(61)から、『都市蝶』という小さな写真集を送っていただいた。23区内で撮りだめた蝶は53種を数える。摩天楼ひしめく都心でも、ひとつかみの緑があれば命をつなぐ。そんな姿が光って見えるそうだ▼ビル群を背に黒いジャコウアゲハが飛ぶ1枚など、孤高と崇高さえ感じさせる。巨大と微小。されど対峙(たいじ)してゆるがず。自然の造物の優美にコンクリートは色あせる▼〈華麗なる翅(はね)もて余し梅雨の蝶〉田辺レイ。早いもので、暦は今年の折り返しを過ぎた。とはいえ政治も経済も梅雨空のまま雲は低い。雨宿りの蝶のように羽をたたむ停滞感。野山を越えゆく夏蝶に、早く姿を変えたいが。