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朝日新聞の天声人語をもっと読む大学入試問題に非常に多くつかわれる朝日新聞の天声人語。読んだり書きうつしたりすることで、国語や小論文に必要な論理性を身につけることが出来ます。
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1枚の絵に日本中が大騒ぎしたのは1974(昭和49)年だった。謎めく微笑を湛(たた)えた「モナリザ」の来日は、田舎の高校生だったわが記憶にも残る。展覧会場の大行列がニュースになった▼日仏首脳会談で日本公開を取りつけた際の、田中角栄氏の言が面白い。端折(はしょ)って書くと、「日本の首相はフランス最高の美女をかどわかしに来たと心配されるかもしれないが、ふさわしい栄誉をもって迎え、指一本触れさせずに送り返すと約束します」▼国賓級の来日から時は流れて、いま、この美女の人気も並ではない。「真珠の耳飾りの少女」を含む「マウリッツハイス美術館展」が東京都美術館で始まった。17世紀オランダの画家フェルメールの名品も、至宝の名に恥じない▼モナリザは微笑だが、少女はまなざしで惹(ひ)きつける。「目で殺す」とでも言おうか、湛えているのは初々しい親密さだ。まっすぐな視線が、見る者と少女を「一対一」の空間に置く▼そんな至宝にも、不遇な時期があった。19世紀に競売にかけられたときは、評価できないほど汚れていて、はした金で落札されたという(『フェルメールへの招待』朝日新聞出版)。よくぞ損なわれず、失われもしなかったと、冷や汗の出る話である▼少女が誰なのか分かっていない。実在しなかったとも言われる。だが天才の筆の冴(さ)えだろう。300年を超えて画布に息づく存在感は、永遠の相を帯びてゆるぎない。美女あり遠方より来る。また嬉(うれ)しからずや。38年前も、いまも。