駅に向かう裏道に枇杷(びわ)の木があった。小ぶりだけれど、実はつややかに光っている。一つを分けてもらった。ごしごしと汚れを落とし、皮をむかずにかぶりつく▼じゅわっと、汁があふれてきた。大粒の房州産ほど甘くはないが、ほどよい酸味が涼風を送ってくれる。<枇杷黄なり空はあやめの花曇り>山口素堂。枇杷の実は梅雨空がよく似合う▼官庁などでは、節電対策として「スーパークールビズ」が始まっている。冷房が効きすぎ、上着をはおって寒さ対策を講じるというばかげたことはもうやめよう▼夏の盛りの旧暦六月は、服装に多少の乱れがあっても許されるという「六月無礼」という言葉が古くからある国である。暑さに合わせた服装を楽しみながら、政府や電力会社の電力不足キャンペーンのうそを暴きたい▼この週末の夜も原発の再稼働反対を訴える人々が首相官邸前に続々と集まった。地下鉄の国会議事堂前駅は、勤め先からデモに参加する多くの人たちで身動きが取れず、官邸前の道は人の波で埋め尽くされた。主催者側は「十五万は確実に超えたのではないか」と話している▼組合の旗が林立したような時代のデモとはまるで違う。小さな子ども連れの母親やお年寄りの姿も目立つ。紫陽花(あじさい)を手に持つ人が多かった。誰が名付けたのか「紫陽花革命」。変えられない社会を変える力がそこにあった。