HTTP/1.1 200 OK Date: Tue, 26 Jun 2012 22:21:12 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Connection: close Age: 0 東京新聞:週のはじめに考える イスラムを恐れるな:社説・コラム(TOKYO Web)
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【社説】

週のはじめに考える イスラムを恐れるな

 エジプトの大統領に初のイスラム主義者が就くことになりました。宗教独裁はむろん困りますが、世界はむやみにイスラムを恐れるべきでもありません。

 むやみに恐れるな、といいましたが、恐ろしさは時につくられたりもするでしょう。とりわけ権力闘争にはつきものというのが歴史の教えでもあります。

 大統領を送り出そうというムスリム同胞団の場合、権力を競い合った最初の相手はアラブの英雄ナセル大統領でした。

 一九五四年秋、有名な暗殺未遂事件が起きました。アレクサンドリアの広場で演説中のナセルを六発の銃弾がかすめたのです。エジプト革命をナセルらとともに闘ってきた同胞団が放った弾でした。

◆政権が繰り返す弾圧

 その時、ナセルは叫びました。

 「私は死なない。たとえ私が死んでも、皆さん一人ひとりがナセルなのです」

 ナセルの方が役者ははるかに上でした。民衆は喝采。民族主義の輝いた時代も彼の味方でした。同胞団は“悪者”として弾圧され、地下に潜り、国外に逃れました。ただし、大衆の意識に思想的影響を深く残したという研究者もいます。

 後継のサダト大統領は、逆に同胞団と和解します。ナイルデルタの農家出身でもともと密接な関係をもっていました。政敵の左派勢力を弱める手段でもありました。しかし、その勢力が伸長し政権を脅かすとみるや、弾圧に向かいます。イスラエルとの平和条約締結後、過激派のジハード団に暗殺されました。

 そして、三十年に及ぶムバラク政権の登場です。

 彼は同胞団を制限付きで許容するという方法をとりました。逆にいえば、既成政党との提携や、医師、弁護士などの職能団体での活動は認めたのですが、権力を脅かしかねない政党活動は断じて禁じたわけです。

◆テロが生んだ警戒心

 ナセル以来およそ半世紀の長きにわたって、同胞団は“在野の権力”とでもいうべき存在だったのかもしれません。

 政治権力は常に恐れ、米欧も中東不安定化などを理由に嫌いました。加えて、ビンラディンらのテロ、日本人を含む観光客らをねらった過激派テロが、イスラム一般をひとからげにして世界中に警戒させてしまったのです。

 ムスリム同胞団は、二〇年代、都会の虚飾に反発した地方出身の青年教員ハッサン・バンナーにより秘密結社として創設されました。やがてエジプト最大の政治結社に育ち、近年は福祉、教育、慈善に力を入れ、海外にも組織を広げています。

 選挙に強いのは、長く培ってきた組織力の寄与が大きいにせよ、穏健で中道的なイスラム思想が広く民衆に浸透しているからでしょう。貧しくとも信仰に熱心で、道徳を重んじる暮らしを大切にする人々です。

 イスラムに対し、どういう考えをもとうと、そういう現実から目をそらすわけにはいきません。彼らは一票を投じたのです。

 中東でイスラム主義がいかに潜在的に根を広げていたかは、新生チュニジアやモロッコの議会選でも明らかになっています。ともに穏健イスラム政党が勝利しイスラム主義の首相が誕生しています。

 とはいえ、もしイスラム勢力が政権を担当するとなれば、現実的な政治感覚が必要になります。イスラム以外の宗教や少数派、世俗的勢力の価値観をよく認め、イスラムの押しつけと受け取られるようなことは慎まねばなりません。押しつけは弾圧と同じです。

 イランのようなある種の宗教独裁は、エジプト国民の望むところではないはずです。

 イスラエルや米国はとりわけ警戒を強めています。

 しかし、こう考えてはどうでしょう。イスラム勢力が健全な政治を行うことで、民衆が抱いてきた西洋に対する偏見がはじめて取り除かれるのではないか。テロの芽はやっと摘み取られるのではないか。それこそ中東民主化の果実の一つでしょう。

◆過去と現在の対話を

 エジプトの混乱は続くかもしれません。軍部は権力をなかなか放したがりません。しかし大きな流れは変わらないでしょう。エジプトの中でも外でも、イスラムを嫌ったり怖がったりするだけでは何も進まないのです。

 「歴史は過去と現在との対話である」とは、英国の歴史家E・H・カーの言葉です。過去を今に照り返させるのです。それではじめて、未来を考えることができるのです。弾圧はテロと独裁しか生まなかった。それを未来に引き渡してはならない。歴史は繰り返してはならないのです。

 

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