ミャンマー民主化運動のシンボル、アウン・サン・スー・チーさんの外国歴訪が続く。改革が本物だと見る外国の投資家の視線は熱い。民主化支援の果実が、民衆に行き渡るよう期待したい。
スー・チーさんの外国訪問は、二十四年ぶりのことだ。軍事政権が自宅軟禁を繰り返した。一九九一年にはノーベル平和賞に輝いたが、授賞式に出られなかった。
スー・チーさんが今、大手を振って外国を訪れ、政治について自由に語ることができる。その姿こそが、現政権によるミャンマーの民主化を、本物であると国際社会に強く印象づける。
その半生を描いたリュック・ベッソン監督の映画「The Lady ひき裂かれた愛」が来月二十一日から日本で公開される。
欧米諸国は経済制裁を緩和し、日本も凍結してきた円借款の再開を決めた。本格的に動き始めた民主化を、後戻りしないよう力強く支えることが大切だ。
だが、誰のための民主化かという点で、スー・チーさんと政権側にはまだ違いがありそうだ。
スー・チーさんは二十一年の時を経て果たしたノーベル賞受賞の記念演説で「改革は、国民生活が向上した場合のみ効果的と言える」と述べた。二十一日には英国議会で上下両院議員を前に演説し、議会政治を通じて民主化を進める決意を示した。
四月に来日したテイン・セイン大統領は、スー・チーさんと「国民、国益のために協力する」と述べた。ミャンマーの主な企業は、軍政とのビジネスで成長した政商が多いという。大統領にはぜひ、「国民のため」の視点を忘れず、民主化の恩恵が公平に民衆に分配されるよう努力してほしい。
鉱物や天然ガスなどの資源、安い労働力などに、日本、韓国、欧米、東南アジアの企業が軒並み注目している。だが、企業側がもしも利益のみを追求し、ミャンマーの既得権益層だけを潤わせるような姿勢で投資するなら問題だ。
若者の失業問題改善や、農民の所得向上などにつながる投資であってほしい。
約六千二百万人の国民の七割が地方に住み、その三分の一が土地を持たない農民であるのがミャンマーの実情だ。
少数民族問題が解決していないだけでなく、異なる宗教の民族による紛争も深刻になっている。民主化の成果をすべての国民が実感できるよう、国際社会はミャンマーを後押ししたい。
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