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朝日新聞の天声人語をもっと読む大学入試問題に非常に多くつかわれる朝日新聞の天声人語。読んだり書きうつしたりすることで、国語や小論文に必要な論理性を身につけることが出来ます。
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女子も同じだろうが、「男子三日会わざれば刮目(かつもく)して見よ」という。人は日々変わる、心して接すべしという戒めだ。潜伏17年、社会が刮目して捜す顔が司直の手に落ちた▼殺人容疑などに問われたオウム真理教元信徒、高橋克也容疑者(54)。連行される中年男は、最後の逃走劇での映像、似顔絵のどれとも違って見えた。「会わざる数日」を経た鮮明な輪郭、伸びた髭(ひげ)は実物にしかない存在感を放っていた▼容疑者はマンガ喫茶にいた。住んでいた川崎からJRで一駅の距離は、動くに動けぬ雪隠(せっちん)詰めを思わせる。匿(かくま)ってくれる仲間もいないのか、潜伏と呼ぶには無防備な、くすんだ末路である▼追い詰めたのは、防犯カメラという「定点監視チーム」と、異例の公開捜査だろう。メディアに毎日さらされる己の近影。解像度に関わらず、逃げ慣れた身にもこたえたはずだ。街角や天井から降り注ぐ「無言の刮目」は、監視社会の息苦しさと引き換えに、犯罪者の日常をしばる▼「これほど長く逃げ回っていたことは、事件による被害に輪をかけて、私たち被害者や遺族を苦しめました」。地下鉄サリン事件で駅員の夫を亡くした、高橋シズヱさん(65)の言葉は鋭い。一人が逃げた月日は、万人が泣いた歳月でもある▼これで、特別手配されたオウムの残党はすべて捕まった。しんがりの男には重い仕事が待つ。苦い記憶の断片を残らず法廷に差し出し、狂気の実相をありのまま語ることだ。泣かせ続けた者の、せめてもの償いである。