私たち電力消費者は原発立地自治体の苦悩をよそに、野放図に電気を使い過ぎてきた。これまでの反省と感謝をこめて呼びかけたい。ともに原発依存から抜けだそう。新しい時代へ歩きだそう。
「社会機構が複雑化し、生活機構が都市化すればするほど、私たちは自分自身を生み育んでくれた、ふるさとの“土”に対する思慕を募らせてゆくものではなかろうか」
約四十年前、当時の福井県大飯(現・おおい)町長が町史の発刊に寄せた「美しき壮挙」と題する一文だ。原発の再稼働に激しく揺れるふるさとを、筆者はどう思うのだろう。
町史発刊から八年後の一九七九年、大飯原発1号機が営業運転を開始した。それまで見たこともないような複雑化の大波だったに違いない。
巨額の原発マネーが毎年流れ込み、雇用が生まれ、ハコモノができ、いつしか町財政の約半分を原発マネーに依存するようになっていた。
日本中が右肩上がりの経済に潤って、ふるさとを豊かにしたいと考えた。誰もそれを責められまい。だが、“泡”の経済はいつかはじけるものだと、すでに思い知らされた。
野田佳彦首相は八日の記者会見で、「四十年以上原子力発電と向き合い、電力供給を続けてきた立地自治体への敬意と感謝の念を新たにしなければならない」と、感謝の言葉を述べた。なぜ感謝したいのか。それは立地自治体が巨大な未知の危険を引き受けてくれていたからだ。
ところが、その危険はもう未知ではない。福島第一原発の事故で、それがあらわになった。世界有数の地震国日本に、例外などありえない。私たち電力消費者は、すべての原発立地地域に、危険という長年の重荷を下ろしてほしいのだ。
収入源を失うことで、暮らし向きを心配するのは当然だ。しかし、使用済み核燃料の後始末一つとっても、原発の未来は危ない。原発マネーは永続しないだろう。それより、有望な自然エネルギーの生産拠点や今後、絶対に必要な廃炉ビジネスの研究拠点などに生まれ変われるよう、ともに政府に働きかけたい。
私たちは電力への依存を改める。節電をしよう。ともに依存から抜けだそう。新しい時代に踏みだそう。今が、またとないチャンスだから。
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