沖縄県議選は自民、公明両党など仲井真弘多知事の与党が過半数を奪還できなかった。普天間飛行場の県内移設に向けて知事の軟化を期待するのは一層困難だ。政府には県内断念の潮時ではないか。
野田内閣が抱いていた一縷(いちる)の望みは絶たれたに違いない。四十八議席をめぐって争われた沖縄県議選で、知事与党の自公両党などは選挙前と同じ二十一議席にとどまった。仲井真氏にとって厳しい県政運営が続く。
政府は二〇一二年度予算で、使途の自由度が高い総額千五百七十五億円の「沖縄振興一括交付金」を創設し、交付金を含む振興費の総額も概算要求より五百億円を上積みして約三千億円とした。
県側の要望に応えたものだが、米軍普天間飛行場(宜野湾市)を名護市辺野古に移設する日米合意履行に向け、仲井真氏の妥協を引き出す狙いがあるのは明らかだ。
一〇年知事選で県外移設を求める立場に転換し、政府の環境影響評価書にも県内移設を「事実上不可能」とする意見書を提出したとはいえ、仲井真氏はもともと条件付きで県内容認の立場だ。
森本敏防衛相が滑走路の移動など「沖縄からもし意見が出れば深刻に受け止めないといけない」と計画修正に言及したのも、知事の軟化に期待したのだろう。
知事与党の過半数割れで妥協の余地がより少なくなったのは当然だが、仲井真氏が県内容認へと再転換する可能性は、そもそもないと考えるのが妥当だ。
今回の県議選では普天間飛行場移設をめぐる問題は大きな争点にはならなかった。候補者のほぼ全員が県内移設に反対したからだ。
在日米軍基地の約74%が集中する状況は本土による構造的差別だと、沖縄県民が公然と語るようになった政治的状況が背景にある。
米軍基地提供という日米安全保障条約上の義務を沖縄県民により多く押し付けている状況を変えない限り、安保条約の運用はやがて行き詰まるに違いない。
五月十五日に行われた沖縄復帰四十周年記念式典で、上原康助元沖縄開発庁長官は野田佳彦首相、ルース駐日米大使に対して「なぜ両政府は沖縄県民の切実な声をもっと尊重しないのか」と訴えた。
辺野古移設を唯一の解決策とする限り、沖縄県民の声と向き合うことにはならない。首相は消費税増税に政治生命を懸けるよりも、県民が切望する県内移設断念にこそ決意を示すべきである。
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