オウム真理教の逃亡犯の捜査で、あらためて注目が集まったのが似顔絵だ。かつて想像で描かれた菊地直子容疑者らは似顔絵とはまるで別人だったが、今月一日、河北新報などに掲載されていた震災身元不明者二十人の似顔絵には、目を奪われるような力があった▼遺体の発見直後に撮影された写真を基に、宮城県警の鑑識課員が描いたのだから当然だろう。顔の筋肉の付き方などを観察し、生前の表情に近づけようと工夫を重ねたという▼発見場所や服装、身体の特徴などとともに公表すると、二十四件の問い合わせがあった。二人の身元が判明し、捜査員は現地に飛び、地道な照合作業を続けている▼「家族の遺体を見つけることで、ようやく震災にけりがつき、復興に踏み出せるのです」。県警の担当者は似顔絵を作成した理由を語ってくれた。五十人分を順次公表する。被災地では今も、遺体と向き合っている▼過日、震災直後の六日間、「壁新聞」を出した石巻日日新聞社を訪ねた。津波は輪転機のある一階まで流れ込んだ。「人の乗った車が流されるのを二階から見ることしかできなかった」と当時、報道部長だった武内宏之常務は振り返った▼震災からきのうで一年三カ月。武内さんはあの時のことを話すと、光景がよみがえり涙が出るという。生と死の境を凝視した人たちには、「まだ一年余り」なのだ。