結婚式を挙げなかったカップルが、一生の思い出を残したいと、ウエディングドレスとタキシードや、和装で記念写真を撮る「フォトウエディング」が静かなブームらしい▼披露宴を開く費用がない、「おめでた婚」なので式は挙げなかった、など理由はさまざまだ。さびたトタン板に囲まれた荒れ屋の一室にも、幸福そうな写真が飾ってあった▼特別手配され、十七年ぶりに逮捕された元オウム真理教信者の菊地直子容疑者(40)は一緒に暮らし始めた男から求婚され、初めて自らの過去を明かしたという。結婚はできない代わりに、写真館で記念撮影したのがウエディングドレス姿の写真である▼地下鉄サリン事件で三十三歳の独身の娘を失った母親の姿が頭に浮かんだ。サリンを製造した土谷正実死刑囚の裁判で女性はこう叫んだ。「目を開けてください。娘を殺された母はこんな顔をしています」▼愛する人から出頭を勧められながら、逃亡生活を続けたのは二人で育んできた小さな幸せを手放したくなかったからだろう。サリンの犠牲になった若い女性は、恋愛をする夢も、一家だんらんという小さな幸せも奪われた▼土谷死刑囚の部下だった菊地容疑者は、サリン生成に関与したことを認めたが、何をつくっていたか知らなかったと供述している。全てを明らかにし、なお残るオウムの闇を照らすことが償いである。