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朝日新聞の天声人語をもっと読む大学入試問題に非常に多くつかわれる朝日新聞の天声人語。読んだり書きうつしたりすることで、国語や小論文に必要な論理性を身につけることが出来ます。
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洋の東西を問わず、昔は奇妙きわまる裁判があった。欧州では殺した者が被害者の遺体に近づくと、亡骸(なきがら)から血が流れると信じられたそうだ。そこで、ある地方では、犯人不明の殺人があると、近所の者を残らず呼び出して遺体に触らせたらしい▼まともに裁けたとも思えないが、『続法窓夜話(ぞくほうそうやわ)』(岩波文庫)によれば、実際に血が出て有罪になった話が伝わっている。以来時は流れても、神ならぬ身で人を裁く難事が、誤りと道連れなのは変わらない▼15年前に東京で起きた東京電力女性社員殺害事件について、東京高裁は無期懲役に服しているネパール人男性(45)の再審開始を認めた。無実を訴えてきた本人はむろん、家族や支援者が待ち望んでいた朗報である▼裁判は一審で無罪、二審で有罪にくつがえり、それで確定した。きのうの決定は、新たなDNA型鑑定を「無罪を言い渡すべき明らかな新証拠」と判断している。併せて刑の停止も認めた。つまり釈放である▼〈叫びたし寒満月(かんまんげつ)の割れるほど〉の一句を思い出す。無実を訴えながら死刑を執行された西武雄さんが獄中で詠んだ。刑は違うが、男性も同じ思いではなかったか。しかし、ようやく開いた道に検察は通せんぼをする▼「到底承服できない」と異議を申し立てたため、裁判官を替えて審理は続く。警視庁の元幹部が言う「間違いなんてことは絶対にない」も怖い言葉だ。「真実」をするりと逃がして、冤罪(えんざい)を生みかねない。謙虚な自信が、法の守り手にはほしい。