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朝日新聞の天声人語をもっと読む大学入試問題に非常に多くつかわれる朝日新聞の天声人語。読んだり書きうつしたりすることで、国語や小論文に必要な論理性を身につけることが出来ます。
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飛ぶ鳥のスローモーションが美しいのは、その姿が理にかなっているからだと思う。羽ばたく翼の端がねじれることで、宙に浮きながら前に進む。発達した胸筋が絞り出す揚力と推力の使い道を、鳥たちは生まれながらに知る▼久しぶりに自然界で生まれたトキが、けなげに羽ばたいている。早朝の「飛行訓練」は、早起きの目をこすって自転車と格闘する子のようだ。飛び方は拙(つたな)くても、すでにして古い記録映像の通りである。淡紅(たんこう)色の翼を翻し、時に滑空する様(さま)に、種を保つ神の業を見る▼野生での巣立ちは38年ぶりという。ゆりかごの杉林を出て、民家の屋根で四方をうかがい、親と一緒に休耕田で餌を探す。どんな振る舞いもニュースになる。すべてが38年ぶりなのだ▼環境省の担当官は「順調すぎて怖いくらい」と語った。世界が広がれば、出会う試練も増す。年内には自立の運びだが、中国の実績では、巣立って1年後の生死は半々。専門家が怖がるには理由がある▼それでも、野に放たれた個体からすでに8羽のヒナがかえった。「野生絶滅」なる悲しい仕分けも改められよう。この日を夢に見ながら他界した高野高治(たかじ)さんら、保護活動の先駆者たちに、佐渡の空に舞う幼鳥をお見せしたかった▼いや、ご覧になっているかもしれない。恩返しの飛翔(ひしょう)でもある。若い羽ばたきのそれぞれが、感謝の波動となって天に伝わるはずだ。飼育ケージから里山へ、放鳥一世から次世代へと、淡紅に燃ゆる命をつなぐ長旅が始まった。