HTTP/1.0 200 OK Server: Apache/2 Content-Length: 36534 Content-Type: text/html ETag: "ad7836-22cc-deb6e700" Cache-Control: max-age=1 Expires: Fri, 01 Jun 2012 22:21:52 GMT Date: Fri, 01 Jun 2012 22:21:51 GMT Connection: close
朝日新聞の天声人語をもっと読む大学入試問題に非常に多くつかわれる朝日新聞の天声人語。読んだり書きうつしたりすることで、国語や小論文に必要な論理性を身につけることが出来ます。
|
天使突抜と書いて「てんしつきぬけ」と読む。京都市下京区の古い町名だ。マリンバ・木琴奏者の通崎(つうざき)睦美さんが住んでおられて、取材でお邪魔したことがある▼高校生の時、「冗談はやめて本当の住所を書きなさい」と先生に叱られたそうだ。今も名刺を交わすと「創作ですか」とよく言われる。初対面の人とも町の名前で盛り上がり、思いは深い。もしも町の名が消えるなら?と尋ねると、「それはもう、だんぜん反対します」▼同じような愛着が様々にあったろうに、戦後、各地で由緒ある名前が相次いで消えていった。東西南北や中央で示される新町名は「麻雀(マージャン)型」とも皮肉を言われ、味気ない。平成の市町村合併ではひらがなの自治体がいくつも誕生したが、どこか無表情だ▼そうした中、大阪府泉佐野市が昨日から「市の名前」を売りに出した。市名を企業や商品の名に変える「命名権」の売却である。破綻(はたん)寸前の財政を補う前代未聞の奇策だが、買い手がつくかどうかは分からない。市民も反対の声が多いようだ▼泉佐野は古来の村名「佐野」と国名「和泉」に由来するという。「土地の名は私たちと祖先、過去と現在をつなぐ伝導体の役割を果たしている」は民俗学者の谷川健一さんの言だ。名前に降り積もった時と記憶は厚い層をなす▼地縁と聞けば桎梏(しっこく)のように響くが、「おせっかい」の消えた街は寂しい。住む人に愛される地名は、住む人の情をこまやかにする。貴重な公共財である。津々浦々でもっと守りたい。