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朝日新聞の天声人語をもっと読む大学入試問題に非常に多くつかわれる朝日新聞の天声人語。読んだり書きうつしたりすることで、国語や小論文に必要な論理性を身につけることが出来ます。
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「世界の屋根」と呼ばれるヒマラヤの山々は、畏怖(いふ)をこめて「神々の座」とも称される。明治時代に秘境に潜入した日本人僧、河口慧海(えかい)は8千メートル峰のひとつダウラギリを間近に仰いで、そこに仏の姿を見た▼「あたかも毘盧遮那(びるしゃな)大仏が虚空にわだかまっているような雪峰」と感じ入った。荘厳な山容に、あの「奈良の大仏」が天を突く姿を思い描いたのだろうか。実際、8千メートルの峰を仰ぐと、高さというより大きさに圧倒される▼112年も前に慧海が「仏」を見たダウラギリに、先週、登山家の竹内洋岳(ひろたか)さん(41)が登頂した。ただの成功ではない。世界に14ある8千メートル峰すべての登頂を、これで成し遂げた。17年をかけた日本人初の快挙である▼近年、ヒマラヤの大衆化は著しい。エベレストには富士山顔負けの行列ができるほどだ。だが14座の登頂には、掛け値なしの困難がある。これまでに日本の登山家3人が、9座まで登ったものの落命している▼自然が人間を拒絶している超高所へ、意志と体だけで切り込む。達成まで生き延びることが目標になる、厳しい挑戦である。「冒険とは生きて帰ること」。植村直己さんの至言を胸に畳んでの長い道だったろう▼一流の登山家ほど「命知らず」の行動から遠いものだ。ひるがえって国内を見れば、「14座」ならぬ「百名山」をめざす中高年の登山者が列をなす。だが、百の頂上を踏むためには毎回無事で帰る必要がある。快挙から汲(く)みたい、登山の心構えである。