HTTP/1.0 200 OK Server: Apache/2 Content-Length: 36061 Content-Type: text/html ETag: "ab6d3d-22e1-b9d79100" Cache-Control: max-age=3 Expires: Mon, 28 May 2012 23:21:50 GMT Date: Mon, 28 May 2012 23:21:47 GMT Connection: close 朝日新聞デジタル:天声人語
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天声人語

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2012年5月29日(火)付

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 吉田秀和さんは9年前に妻のバルバラさんを喪(うしな)った。悲しみは深く、心の空白を埋められないまま本紙連載「音楽展望」も休筆が続いた。「黄泉(よみ)の国に行って妻を連れ戻せればと、本当に思う」――本紙に語った悲痛に胸を突かれたものだ▼奥さんは日本文学を研究し、死の床で永井荷風をドイツ語に訳していた。吉田さんは遺作を本に編み、やがて深い痛手から立ち直る。「やっとまた身体に暖かいものが流れだし、音楽がきこえてきた感じ」と、3年後に再開した「音楽展望」に書いている▼幾多の音楽評論は、それ自体が音楽を聴いているような名文でつづられた。一編一編を読みながら、勘所(かんどころ)にすっとおりていく刃を見るような快感があった。しかも森羅万象への知見が深かった▼音楽という芸術の深淵(しんえん)には、なかなか触れにくい。だが吉田さんは、音楽の奥庭に咲く花を、そっと剪(き)って素人にも手渡してくれた。ご本人のめざした「想像力の引き出し役になる批評」に魅せられた人は、わが周囲にも少なくない▼世界屈指のピアニストだったホロビッツの来日公演を「ひびの入った骨董品(こっとうひん)」と評したのはよく知られる。一方、奇人扱いされていたピアニスト、グールドの天才を早くから買っていた。権威に曇らぬ批評眼のゆえだったろう▼昔のエッセーに、妻の祖国ドイツの詩句を引いていた。〈眼をとじてみたまえ その時、きみに見えるもの きみのものはそれだ〉。享年98。閉じた目の内に何を見て、旅立たれただろう。

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