HTTP/1.0 200 OK Server: Apache/2 Content-Length: 35958 Content-Type: text/html ETag: "11e3eaf-22d1-8a000980" Cache-Control: max-age=4 Expires: Mon, 28 May 2012 01:21:15 GMT Date: Mon, 28 May 2012 01:21:11 GMT Connection: close 朝日新聞デジタル:天声人語
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天声人語

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2012年5月28日(月)付

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 東京ぐらしで忘れそうなものに、潮の香がある。生臭さとはまた違う、むせ返るほどの海の息吹だ。わりと近いのは生きのよい海鮮丼ぐらいと思っていたが、さすがに「においのプロ」は鋭い▼京都に本店があるお香(こう)の老舗、松栄堂(しょうえいどう)の畑正高(はた・まさたか)社長が、情報誌「銀座百点」の座談会で、東京に出向いた折のにおいに触れている。「駅におりると、まず海の風があって、ああうらやましいなあと感じます」。うかつにも当方、魚市場の隣で書いていながら、海辺にいる意識は乏しかった▼それではと潮の香を求め、2月に開通した東京ゲートブリッジを目ざした。空路と海路の邪魔にならないよう、上下に気兼ねして「向かい合う恐竜」のシルエットに落ち着いた新名所だ▼入り組んだ岸壁をたどり、恐竜の尻尾から橋の中央へ。そこは埋め立て地の果て、トラックと貨物船が行き交う貿易立国の最前線である。海面から約50メートルでは無理もないが、かすかに排ガスが臭うのみで潮は香らない。羽田へと降下する旅客機が大きかった▼座談会の畑社長は「日本人は無臭の時代に生きている」とも説く。地球上の大多数は、芳香にせよ悪臭にせよ強烈なにおいの中で暮らす。だがこの国では、生活臭がまるで除かれていると▼都会の雑踏は「地球の体臭」までも吸ってしまうのか。潮の香を含んだ海からの風は、ゲートブリッジを越えたあたりで、鼻が利く人だけが気づく程度に薄まるらしい。鉄骨の恐竜たちが「無香社会」の門番に見えてくる。

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