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朝日新聞社説をもっと読む大学入試問題に非常に多くつかわれる朝日新聞の社説。読んだり書きうつしたりすることで、国語や小論文に必要な論理性を身につけることが出来ます。
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どうやら、野田首相は「一票の格差」を「違憲状態」にしたまま衆院を解散する気らしい。国会の会期末まで1カ月を切ったのに、止まったままの衆院の選挙制度改革論議を見れば、そう[記事全文]
地方の交通網が傷んでいる。バス路線はこの5年に全国で1万キロ、鉄道は00年以降670キロが廃止された。地方路線が多い。それぞれ全体の2.5%ほどにあたる。バス会社の7割[記事全文]
どうやら、野田首相は「一票の格差」を「違憲状態」にしたまま衆院を解散する気らしい。
国会の会期末まで1カ月を切ったのに、止まったままの衆院の選挙制度改革論議を見れば、そう思うしかない。
そうではないというのなら、もはや首相自身が各党の党首と談判し、違憲状態を解消してみせるしかない。
首相の出番であることは、先週の与野党幹事長クラスの会談ではっきりした。
民主党の輿石東幹事長が示した案が、政府・与党のやる気のなさを象徴していた。
格差是正のため、小選挙区を「0増5減」する。比例区も75減らし、定数を計80議席削る。105議席となる比例区は11ブロックから全国比例に改め、うち35議席を連用制にする――。
何のことはない。1カ月前に樽床伸二幹事長代行が各党に示し、「理念がない」「複雑すぎる」と猛反発を浴び、協議をこじらせた案そのままだ。
事態を打開するために、首相は輿石氏に収拾を指示した。それなのに再び樽床案を持ち出した輿石氏の無責任さには、ほとほとあきれる。
座長役として協議をまとめる気はまったくないようだ。
格差是正を先送りすれば、首相は自民党の求める「話し合い解散」に応じにくい。それで消費増税法案の採決を先延ばしできれば、増税反対の小沢一郎元代表らが党を割らずに済む。
こんな「党内融和」を、輿石氏がめざしているように見えてしまう。
だが、違憲状態のままで解散するのも、違憲状態を放置し続けるのも、どちらも立法府としての自殺行為に等しい。
最高裁が違憲状態を指摘してから1年2カ月、法律で定めた選挙区割り改定案の勧告期限が過ぎ、違法状態となってからも3カ月が過ぎている。これ以上の怠慢、不作為は許されない。
やるべき作業は三つある。
まずは緊急措置として「0増5減」を実現し、一票の格差をただして「違憲、違法」の状態を解消することだ。
その次に「身を切る改革」でもある定数削減を、各党で話し合えばいい。
そして制度の抜本改革は、首相の諮問機関である選挙制度審議会を立ち上げ、第三者に委ねるべきだ。衆参の役割分担も踏まえて、両院の選挙制度を同時に改革するのだ。
首相と自民党の谷垣禎一総裁は3カ月前の党首討論で、格差是正の優先で一致していた。あれから一歩も進んでいない。
地方の交通網が傷んでいる。
バス路線はこの5年に全国で1万キロ、鉄道は00年以降670キロが廃止された。地方路線が多い。それぞれ全体の2.5%ほどにあたる。バス会社の7割、鉄道会社の8割は赤字経営だ。
人口減と高齢化は急速に進んでいる。国の推計では、今後20年で人口は10%減る。65歳以上の割合は今の24%から32%に高まる。これも地方が先行する。
人が減って乗客が減り、鉄道やバス便が減る。不便だから家の車にたよる。乗客はますます減り、ついに路線がなくなる。悪循環が止まらない。
津波と放射能に交通網を寸断された東北の被災地でも、復旧費用が課題になっている。
このままでは、車を運転できないお年寄りや子どもは、都会にしか住めなくなってしまう。
鉄道やバス会社に任せている限り、不採算路線が整理されるのを見ているしかない。
地域の住民と行政が知恵やお金を出し合い、生活の足を確保する。そんな発想が必要な時代になってきている。
たとえば、住民たちでNPOを作り、バスを自主運行する。道路運送法で認められたそんな方法がある。
ひとつの例が三重県四日市市の「生活バスよっかいち」だ。
10年前に赤字で廃止された三重交通の路線を引きついだ。NPOが運営し、三重交通に運行を委託している。
住民の要望にあわせ、病院やスーパーを通るルートに見直した。この2年ほど乗客が減り気味というが、それでも1日80人は三重交通時代の3倍に近い。
月90万円の経費の3分の1は市の補助だが、残りは運賃と、沿線企業の協賛金でまかなう。
神戸市のはずれ、淡河町(おうごちょう)のNPOによる乗り合いバスはさらに先を行く。
補助金は受けていない。収入は1日約25人の乗客からの一律200円の運賃だけだ。運転手は自前。福祉施設から昼間使わない送迎用のマイクロバスを借り、経費を安く上げている。
四日市も淡河町も、ルートや便数を住民が決めているから、ニーズに応えられている。
注目されるのは、いずれも乗客の大半がお年寄りであることだ。足さえあれば外出したい。そう考えていたお年寄りの需要を掘り起こしたといえる。
気軽に出歩くことができればお年寄りの元気にもつながる。街を出てゆく人も減る。市町村にもそんな効果がありそうだ。
自分の車なしでも暮らせる街はみんなが住みやすい。住民と市町村の工夫にかかっている。