<朝もよし昼もなおよし晩もよしその合々にチョイチョイとよし>。江戸狂歌を代表する大田南畝(なんぽ)(別名・蜀山人(しょくさんじん))の作った狂歌である。酒好きには解説は要らないだろう▼ただ、好きな酒でも、過ぎるほど飲めば健康を損なってしまう。<酒の神は海の神よりもずっとたくさん人間を溺死させた>(イタリアの将軍ガリバルディ)の言葉の通りだ▼なによりも、恐れなくてはならないのは、事故を起こして人を傷つけたり、巻き込んだ周囲の人を不幸に陥れることである。さて、若い首長のこの決断はショック療法なのか、子どもじみた独断なのか▼福岡市の全職員に先日、自宅以外での「禁酒一カ月」というお達しがあった。平日、休日を問わず、外で酒を飲むなという高島宗一郎市長(37)の指示である。例外は、市職員が新郎新婦になった結婚式だけ、というから徹底している▼二〇〇六年には、酔った市の職員が、幼児三人を死亡させる事故を起こしている。最近も飲酒絡みの不祥事が相次ぎ、収賄事件で市役所に捜索が入った十八日夜、二人の職員が酔って暴力をふるい、逮捕されたことが決定打になった▼はやりの公務員たたきへの便乗の感もあるが、市長は真剣だ。<世の中は色と酒とが敵(かたき)なりどうぞ敵にめぐりあいたい>。これも南畝作。飲酒と車が結び付くと凶器になる時代、南畝も居心地が悪そうである。