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朝日新聞社説をもっと読む大学入試問題に非常に多くつかわれる朝日新聞の社説。読んだり書きうつしたりすることで、国語や小論文に必要な論理性を身につけることが出来ます。
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1961年に起きた「名張毒ブドウ酒事件」で、裁判をやり直すかどうかを審理していた名古屋高裁が、死刑囚側の請求を退ける決定をした。7年前にいったん再審開始の決定が出た。だ[記事全文]
ドイツが脱原発の道に回帰して、間もなく1年になる。10年後の22年までに17基の原発をすべて閉鎖する。そんなゴールを見すえて、産業界や社会が一斉に動き、新たな雇用やビジ[記事全文]
1961年に起きた「名張毒ブドウ酒事件」で、裁判をやり直すかどうかを審理していた名古屋高裁が、死刑囚側の請求を退ける決定をした。
7年前にいったん再審開始の決定が出た。だが翌年に取り消され、さらに最高裁がその判断に疑問を呈し、改めて高裁で攻防が繰り広げられる。そんな異例の展開をたどった事件だ。
どんなケースであれ、神ならぬ身で人を裁くのは難しい。同じ証拠を目にし、同じ証言を聞いても、人によってとらえ方が違うのは、裁判という営みがかかえる宿命といえる。
それにしても、裁判所の判断がこうも揺れ動くのは尋常ではない。そもそも元の裁判も一審は無罪、二審で逆転有罪の死刑が言い渡され、最高裁で確定した経緯をもつ。
審理のたびに、評価が右にいき、左に流れる。そんな証拠関係にもとづいて人を有罪に、それも死刑という究極の刑罰を科していいのか。私たちはそう疑問を投げかけてきた。その意味で、今回の決定にも釈然としない思いが残る。
審理は科学論争に終始した。犯行に使われた毒物は、被告が自白したとおりの農薬だったのか。だとすれば、事件直後の鑑定で、本来検出される成分が検出されなかったのはなぜか。
当時の状況に近づけた鑑定が新たに行われた。だが決め手を欠いたまま、高裁は独自の推論を交えながら、「問題の成分が検出されなくても矛盾はない」との結論を導き出した。
そこに、「確定した判決を軽々にくつがえすわけにはいかない」という意識が働いてはいなかっただろうか。弁護側が反発するのも無理はない。
もちろん裁判のやり直しがたびたびあるようでは、社会は混乱する。司法の信頼も傷つく。だがこの事件のように、多くの人の間にもやもやした気持ちを残したまま判決が維持されることもまた、不信を招く。そして後者の方が、より深刻なダメージを与えるのではないか。
科学技術の進展にともない、DNA型鑑定をはじめとする遺留物の分析手法が深まり、取り調べを受ける人の心理メカニズムの解明も進んでいる。検察の手の内にとどまっていた証拠の開示も、進む方向にある。
元の裁判での証拠評価の誤りや見落としをうたがわせる事例に直面したとき、裁判官は、そして社会は、どんなスタンスをとるべきか。
あらためて、「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の鉄則を胸に刻みたい。
ドイツが脱原発の道に回帰して、間もなく1年になる。
10年後の22年までに17基の原発をすべて閉鎖する。そんなゴールを見すえて、産業界や社会が一斉に動き、新たな雇用やビジネスが生まれている。
政府の明確な目標と計画のもと、素早い行動で果実を手にする――。脱原発に向けて、日本が学ぶべきことは多い。
ドイツの変化を象徴しているのは産業界の動きだ。
電力大手のエーオンとRWEは、英国の原発建設計画からの撤退を決めた。すでに合弁会社を設立していたが、今後の建設費増や原発事業のリスクを重視した判断だ。政府の電力自由化策に応じて、ドイツ国内の送電線部門も切り離した。
電機大手シーメンス社も、原子力事業から完全撤退した。新しい送配電システムや蓄電の研究開発、洋上風力発電所への投資を進め、「グリーン企業」への変身を図りつつある。そこに新たな収益源を期待しているからだろう。
注目したいのは、風力や太陽光、バイオマスなどの自然エネルギー普及による経済効果だ。ドイツ政府の推計では、ものづくりから流通サービス業まで約38万人の雇用が生まれた。
ビルや住宅の断熱性を向上させて、エネルギー効率の高い街をつくる取り組みも広がっている。節電や省エネが生活に無理なくとけ込み、経済も活性化する好循環がそこに見える。
福島第一原発の事故を受け、古い原発を中心に8基の運転が停止された。この結果、原発の発電量は昨年、全体の10%台に下落した。逆に約20%まで増えた自然エネルギーの比率を、20年までに35%水準に引き上げるのが政府の目標だ。
ただ、予想以上の変化の早さは混乱も生んでいる。太陽光発電の買い取り価格の引き下げはその一例だ。
自然エネルギーによる発電を固定価格で電力会社に買い取らせる仕組みは、その普及を支えてきた。しかし投資が過熱し、電気料金を通じて消費者の負担増を招いたため、買い取り価格を2割以上引き下げる予定だ。
自然エネルギーを着実に広げるには、発電コストの変化をきめ細かく把握し、買い取り価格を点検していく必要がある。今年7月から買い取り制度が本格スタートする日本にとっても、他山の石となろう。
脱原発への確固たる目標に自然エネルギーへの支援策をうまく組みあわせて、経済や社会の活性化につなげる。日本に必要なのはそんな発想と行動だ。