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朝日新聞社説をもっと読む大学入試問題に非常に多くつかわれる朝日新聞の社説。読んだり書きうつしたりすることで、国語や小論文に必要な論理性を身につけることが出来ます。
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野田政権が国会に提出している社会保障改革の法案は、自民・公明両党の主張と同じ方向を向いている。
今週、衆院特別委員会を舞台に繰り広げられた論戦を見て、改めてそう思う。
議員たちも自覚している。審議では新幹線にたとえていた。
東京から青森に向かう東北新幹線も、新潟行きの上越新幹線も、埼玉・大宮駅までは同じ線路を走る。
「この法案は、大宮まで一緒に行くという話です。一緒に行きましょう」。自民党の茂木敏充政調会長は野田首相に、そう呼びかけた。
その先、どちらに向かうかは法案と切り離し、各党議員と有識者でつくる「国民会議」で話し合おうと提案したのだ。
歓迎する。いつまでも東京駅のホームで口論を続けるわけにはいかない。大切なのは、一駅でも二駅でも前に進むことだ。
■厚生年金の傘広げよ
では、何が終着駅で、どこが「大宮」なのか。
社会保障改革の狙いから、確認しよう。
核家族化が進み、地域の絆が薄れ、非正社員は増加の一途をたどる。子育てで頼れる人がいない。家族を養うには収入が足りず、果ては無年金・低年金に陥る。そんな人が増えている。
どう対応するか。各党の処方箋(せん)は、力点の置き方が異なる。
民主党は社会保障の大胆な充実を掲げてきた。全国民が受け取れる「最低保障年金」の創設や、子ども手当がそれだ。
自民党は、社会保障の充実は控えめだ。家族や地域の絆の再生を重視している。
それが「青森か、新潟か」の違いということなのだろう。
ただし、野田政権の法案は終着駅のずっと手前。控えめな自民党の充実策から、大きくはみ出さない範囲にとどめている。
より多くのパート社員を、正社員と同じ厚生年金の「傘」の下に入れる適用拡大策は、自公政権が07年に提出した法案とほぼ同じ内容だ。拡大の度合いはやや大きい。
折り合うのは難しくない。非正社員が将来、低年金・無年金に陥るのを防ぐ効果があり、今後その対象を広げる一里塚になりうる。私たちも賛成だ。
これは「大宮まで」の改革に違いない。合意を急ぎ、必要があれば修正を加え、今国会で成立させるべきだ。
■国民会議で議論を
むろん、ただちに合意できることばかりではない。収入が低い高齢者の年金を増やす「最低保障機能」の強化と、その財源の一部にするため豊かな人の年金を減らす案は、その一つだ。
収入が多いとはいえ、保険料を一生懸命払ってきた人の年金を削るのでは、年金制度への信頼が損なわれる。低年金・無年金対策は別の財源を考えるべきだ――。自民党の鴨下一郎氏はこう主張した。
私たちも心配だ。老後の所得保障の方法は、生活保護との関係を含め、「国民会議」で徹底的に論じたほうがいい。
一方、子育て支援の法案は今国会で集中的に審議し、合意できる範囲を見定めてほしい。
自民党は法案に否定的だが、たとえば幼稚園と保育所を一体化した「こども園」を広げるといった方向は一致している。株式会社の参入の条件などで違いはあっても、何も合意できないはずはない。
子育て支援は社会保障改革の目玉で、消費税収から7千億円を投じる計画だ。その成果もなく増税だけ先行するのでは、国民の理解は得られまい。
■民主党の失敗に学ぶ
ただ、現実の政治はときに、理性よりも怨念で動く。
審議では、次のようなやりとりが繰り返されている。政府側が「自公の主張を受け入れて法案をつくった。だからのんでくれ」と求める。自公側は「ではなぜ、自公政権のときに反対したのか」と突き放す。
非は民主党にある。自公政権が半歩前進を図ったのに、「抜本改革とはいえない」「終着駅が違う」と蹴った。前進には運賃、つまり増税が要ると言っても必要を認めなかった。なのに何をいまさら――。自公側がそう怒るのは当然だ。
しかし、今度は自公側が「終着駅が違う」と報復したのでは、いつまでも堂々巡りを続けることになりかねない。
私たちは政権交代に、日本が変わる転機になればと期待を抱いた。だがバラ色の終着駅はあまりにも遠く、一駅先、半歩先に進むのに七転八倒している。それにも運賃が要ると、請求書を突きつけられてもいる。
政治とは、一駅ずつ前に進むため、道なき道に線路を敷いていく厳しい作業だ。いま、そんな思いをかみしめている。
だから、「大宮」へ進もう。