<聞いたかと問へば食つたかと答へる>。山口素堂の有名な俳句<目には青葉山郭公(ほととぎす)初松魚(がつお)>を踏まえた江戸川柳だ。ホトトギスを聞いたか、という問いに、カツオを食べたと応じる粋なやりとりである▼鮭(さけ)や鱒(ます)、鮟鱇(あんこう)などの魚類、筍(たけのこ)や梨、柿などの野菜や果物…。江戸っ子は初物を食べれば寿命が七十五日延びると信じていたが、その中でも初鰹(がつお)は別格だった(小菅宏著『「江戸」な生き方』)▼新しい物好きで、好奇心の塊だった江戸っ子気質が残る東京の下町に、世界一の高さを誇る東京スカイツリーが開業した。あいにくの雨の中、併設する商業施設は江戸っ子のような新しい物好きな人たちで大混雑だった▼高い建物がなかった江戸時代、歌川広重、歌川国芳、葛飾北斎といった一流の絵師は、鳥瞰(ちょうかん)図法で描いた浮世絵版画を多く残している。太田記念美術館(東京・原宿)で開かれている「空からの眺め−大江戸八百八町」展で、江戸の眺望を楽しんできた▼国芳の「東都三ツ股の図」は、スカイツリーにそっくりな塔が描かれていて話題になった。実際は、井戸を掘るために組み上げた櫓(やぐら)だったらしい▼絵師たちの想像力を思いながら鳥の目を楽しみたいところだが、スカイツリーの展望台に上れる個人入場券は七月上旬までほぼ完売だ。<見たかと問われ見たと答える>には、もう少し待たなくてはいけない。