国産ロケット「H2A」が、初めて海外から受注した韓国の人工衛星を載せて、打ち上げに成功した。コスト高などの課題を乗り越えて、技術の進化と宇宙ビジネスの拡大を目指してほしい。
H2Aの打ち上げ成功は、今回で十五回連続。過去二十一回のうち失敗は一回だけだ。昨年十二月の打ち上げで、国際的な信頼性の目安とされる95%に達した成功率はさらに上がった。海外の人工衛星を載せた実績ができたことと合わせ、衛星打ち上げの宇宙ビジネスに乗り出す節目の一歩といえる。
ただ、手放しで喜んではいられない。三菱重工業が、宇宙航空研究開発機構(宇宙機構)から打ち上げ業務を引き継いだ二〇〇七年以降、海外から百件を超す引き合いはあったが、実際の受注は今回の一件のみ。それも、韓国の多目的観測衛星「アリラン3号」単独でなく、水環境を観測する宇宙機構の衛星「しずく」と相乗りさせることで、料金を割安にしたことが受注につながったようだ。
通常の打ち上げ費用が高いことが、受注の大きな足かせとなっている。一回分の費用は、H2Aの八十五億〜百億円に対し、先行する欧州やロシアのロケットは八十億円程度とされる。さらに米国のベンチャー企業は、H2Aの半額程度で参入してきた。
赤道上空の静止軌道に衛星を投入するには、赤道周辺からの打ち上げが効率的だが、H2Aの発射場は緯度の高い種子島にあり、その分、余計に燃料が必要。コストが膨らむのに加えて、搭載能力は落ちる。このため打ち上げられるのは四トン程度の衛星までという。世界の人工衛星は大型化が進んで大半が四トンを超えており、H2Aの能力が需要に対応しきれていないのも、克服しなければならない課題だ。
三菱重工は、コスト削減に向けて、特注で高価な専用部品を、自動車や航空機の汎用(はんよう)性のある部品で代替することなどを検討している。今回の成功をビジネス拡大の弾みとするため、いっそうの企業努力が求められる。
同時に、政府による支えも重要だ。コスト削減と安定生産に必要とされる年四回の打ち上げや実績づくりのために、通信や観測衛星など、継続した官需による利用は欠かせない。官民の連携はもとより、宇宙利用の新たな需要を掘り起こそう。日本の科学技術の高さを示す航空宇宙産業を大きく育てたい。
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