いよいよ「世界一の高さ」のお披露目だ。東京スカイツリーの開業である。江戸の歴史が息づく地に、先端技術の粋を集めた巨大タワー。震災を乗り越えていく象徴として、ともに歩みたい。
四十人が一度に乗れる大型エレベーターが滑らかに動きだした。わずか五十秒ほど、一気に地上三百五十メートルの天望デッキへ運ぶ。二千人が収容できる大空間で関東一円の地平線を望める大パノラマに圧倒される。
この天望デッキには二百年前に描かれた屏風(びょうぶ)絵がある。絵師、鍬形〓斎(くわがたけいさい)が描いた「江戸一目(ひとめ)図屏風」は、手前に浅草や両国、隅田川、中ほどに江戸城や日本橋、遠くに富士山があり、まさに現在の目前の光景と重なる。時代を超えたロマンに思いをはせる趣向だ。
スカイツリーは、東京タワーから引き継ぐ電波塔が本来の役目だが、ギネスブックに認定された「世界一高い塔(六百三十四メートル)」として新名所になりそうだ。特に東日本大震災以来、激減した外国人旅行客の回復にも一役買ってほしい。
スカイツリーの見どころは、日本古来の匠(たくみ)の技と、最新の建築技術の融合である。敷地の制約から塔は下部が三角柱だが上に行くにつれ円柱形に変わる特殊な設計だ。そこに日本刀の「そり」や寺社建築の「むくり」(膨らみ)といった造形を用い、さらに地震や強風時の揺れへの対策は、中央部に「心柱(しんばしら)」を通すという五重の塔の構造にヒントを得ている。
昨年三月の震災当日は、最高点近くの工事中だった。現場は数メートルの振幅があったが、確かな耐震技術を実証するように作業は続けられ、被害もなく一週間後には無事最高点に達した。その光景は、震災の困難に直面した日本に勇気を与えたはずだ。
ただ、残念なのは、スカイツリーに併設される商業施設「東京ソラマチ」がブランド店ばかりなことである。テナント料が高く、出店できなかった地元商店街では客足が遠のく恐れもある。地域と共存する配慮を望みたい。
昭和三十年代に完成の東京タワーは高度成長期のシンボルだった。十九世紀後半のパリに建ったエッフェル塔は、当時世界一の高さを誇るとともに産業発展を競うパリ万博の象徴だった。今では世界中から年間六百万人以上が訪れ、有料観光施設で入場者数世界一である。東京スカイツリーも長く愛され続ける名所になってほしい。
※〓はくさかんむりに惠
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