大阪都構想の素案がようやく示された。あのダブル選から半年、十分な議論を積んだ跡がうかがえる。大都市制度を見直し、地方から国の在り方を変える先駆者として、成案にこぎつけてほしい。
素案は大阪府市統合本部の議論を経てまとめられ、府市議らでつくる協議会に提示された。大阪維新の会の公約通り、府市再編により広域自治体機能を大阪都に一元化し、大阪市は基礎自治体の特別自治区に分け、中核市並みの権限を持たす内容だ。
都が世界の都市間競争に打ち勝つ「強い大阪」を目指す一方、各特別区には公選首長と議会を置き住民に身近な「やさしい大阪」を志向する。役割分担が明確化され、二重行政の現行よりましだ。
今後、再編を拒否した政令市の堺市をどうするか、その他の市町村を中核市レベルにどう引き上げていくか、の課題は残る。
住民が最も知りたいのは、現在の二十四区がどう再編されるのか、特別区に税財源はどう配分されるのか、だ。ここが不明確では議論が進みづらい。しかし、生みの苦しみには時間がかかる。
区割りは公募区長が就任する八月から検討を始め、提案は一年後とした。直接利害が及ぶ住民の大多数が納得できるよう公開の場で議論を重ねてもらいたい。
財政調整では税財源の抜本改革を目指すとした。地方の財政自主権の確立は地域主権改革に欠かせない。調整財源と地方交付税の配分を担うのは都か、それとも特別自治区の共同体か−。シミュレーションを検討しながら、新しい制度を編み出してほしい。
気掛かりなのは、統治する側の論理が目立ち、そこに住む生活者の視点が足りないことだ。統合本部で水道や地下鉄などの経営形態や、重複する行政サービスの見直しが進んでいる。住民が都構想の善しあしを判断できるよう具体的なプランをもっと示すべきだ。
国政をうかがう維新の会を警戒する既成政党は、地方制度調査会の議論をまたずに都構想の実現に必要な法案を作った。ただ、今国会での審議は始まりそうにない。先送りの政治は維新の会をさらに勢いづかせるだろう。
横浜市が積極的な、道府県から政令市を独立させる特別自治市、さらに中京都、新潟州、福岡都市州など各地で構想が相次ぐ。多様な統治制度から各自治体が選択できるようになれば、おのずと中央集権は弱まる。大阪にとどまらない国民的な議論を期待したい。
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