今日は子どもたちに特に読んでほしい、金環日食のお話です。大宇宙を規則正しく巡る星々の神秘、正確にそれをとらえる科学の力、この年に巡り合わせた偶然の面白さ。さあ、空を見てみよう。
想像してごらん。今から九百三十二年も前の平安時代、天空に突如現れた金のリングを見た人たちの驚きを。
二十一日早朝、私たちはその時と同じような空を見ます。九州から関東にかけての広域で、太陽の外縁だけが強く輝く金環日食、北陸や北海道、東北など日本全国で、部分日食に出会えます。
こんなに広い地域、そして名古屋や岐阜で金環日食を観測できるのは、実に九百三十二年ぶり。気の遠くなるような巡り合わせです。恐らく史上最も多くの日本人が、金環日食をともに見る日になるでしょう。
金環日食という出来事自体が、奇跡のような偶然です。日食はよく知られているように、太陽と月、地球が一直線に並んだ時、太陽が月の陰に隠れて、欠けて見える現象です。三つの星はなかなか真っすぐに並べません。月が地球の周りをまわる公転軌道が、地球が太陽の周りをまわるそれに比べてわずかに傾いているからです。
太陽の直径が月の約四百倍、地球から太陽への距離も月への約四百倍という偶然から、人間の目にはどちらも、ほぼ同じ大きさに見えること。さらに、月の公転が楕円(だえん)軌道を描くため、その距離に約一割の変化が起きる条件が重なって、金環日食が生まれます。
遠い祖先は折々に空を見上げて、天空の不思議に驚き、恐れを抱き、やがてあこがれ、謎解きに挑むようになったのでしょう。
今は滅びた中米のマヤ文明は、金星や火星の軌道計算ができるほど、天体のことを知っていました。太古から人は、星の巡りを追って暦を作り、暦の上に文明を築き上げました。
今や、太陽系の果てまで届く小舟を操るようになりました。不思議は科学の礎です。
科学的な技術の粋を集めたはずの原発神話が、震災で崩れ去りました。こんな時こそ、自然の不思議と科学の力を自分の目で確かめたい。千年の時間を超える驚きやあこがれを、私たちも味わいたい。東京で次に金環日食に会えるのは、三百年先のこと。
想像してごらん。金色に輝くリングをくぐると、向こう側には何が待っているのでしょうか。
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