HTTP/1.0 200 OK Server: Apache/2 Content-Length: 35932 Content-Type: text/html ETag: "a7f7a1-22f3-7f73f640" Cache-Control: max-age=1 Expires: Fri, 18 May 2012 21:21:52 GMT Date: Fri, 18 May 2012 21:21:51 GMT Connection: close
朝日新聞の天声人語をもっと読む大学入試問題に非常に多くつかわれる朝日新聞の天声人語。読んだり書きうつしたりすることで、国語や小論文に必要な論理性を身につけることが出来ます。
|
伝言ゲームと同じ遊びが欧米にもあって、その英語名はまちまちらしい。米北部のある地域ではrumors(ルーマーズ、うわさ)と言い、南部ではsecrets(シークレッツ、秘密)と言うそうだ。詩人のアーサー・ビナードさんが本紙に寄せた随筆に書いていた▼なぜかRussian scandal(ロシアンスキャンダル、ロシアの醜聞)という呼び名もある。曖昧(あいまい)にして隠微な語感を、原発事故調査の参考人招致で思い出した。海江田元経産相によれば、発生当時の東電と首相官邸のやりとりは「伝言ゲーム」さながらの状況だったらしい▼伝言ゲームは正しく伝えようと懸命になる遊びだ。ひるがえって当時、能力不足に加え、隠蔽(いんぺい)も歪曲(わいきょく)もあったのは想像に難くない。事故現場からの「撤退」をめぐる言った言わないも、その辺の産物だろう▼海江田氏は「全員撤退と認識した」と述べ、東電は「言っていない」と言う。制御を放棄して逃げ、原子炉が爆発すれば被害は途方もない。不信をあおる水掛け論だが、突きつけるものは深い▼「十死一生」という言葉がある。「九死一生」を強め、まず助かる見込みのないことを言う。さらに「十死零生」と言われたのが特攻だった。万が一の時、自分は人に決死的行為を命じられるか。逆に、命じられたらどうか。原発というものの魔性が、そこにある▼官邸と東電の伝言ゲームには、なお何かが隠れていよう。事故全体に潜む不都合な真実は膨大だと誰でも思う。曖昧に包んだまま再稼働を急ぐ。愚というほかはない。