消費税増税を柱とする一体改革関連法案が衆院特別委員会で実質審議入りした。野田佳彦首相の意欲ばかりが目立つが、社会保障改革の全体像を決めずに増税だけを既成事実化するのは本末転倒だ。
首相が政治生命を懸けると断言したからには、この国会で法案を成立させられなかったら、衆院を解散して国民に信を問うか、内閣総辞職するかの覚悟なのだろう。
自らの信念に基づく政策の実現に努めることが、政治家に必要な資質であることに異論はない。その政策をマニフェストのどこにも書いていないことが問題なのだ。
約束は守る、約束に反することはしない。これが政治家、いや人間として最も基本的な行動規範であることを、まず指摘したい。
その上で、少子高齢化社会の急速な進展で、年金、医療、介護などの社会保障制度がこのままでは財源不足に陥り、いずれ破綻するという問題意識は共有する。
お年寄りから子どもまでが安心して生活できる、将来にわたって持続可能な社会保障制度とはどういうものか、その財源をどうするのか。制度設計の責任はまず政府と国会が負わねばならない。
しかし、政府が今国会に提出した社会保障と税の一体改革関連法案は消費税率を10%に引き上げるにもかかわらず、現行制度維持を基本とし、抜本改革には程遠い。
特に年金制度。民主党が掲げた消費税を財源とする最低保障年金(月額七万円)導入法案は、そもそも今国会に提出されていない。保険料を原則とする自民党は最低保障年金の撤回を求めている。
年金財源は税金で賄うのか、保険料を原則とするかは制度の根幹だ。社会保障全体をどう改革し、行政や国会の無駄をどこまで省くかを具体的に検討しなければ、どの税金をどこまで増やすべきかは本来、決められないはずだ。
民主、自民二大政党の党利党略で消費税増税だけを先に決めてしまうのなら、増税先食い、社会保障置き去りとの批判は免れまい。
社会保障制度は政権交代でも大きな変更がないよう与野党間で合意を得ることが望ましい。そのためには、国会に「社会保障制度に関する与野党協議会」を置くことを真剣に考えたらどうか。
自民党は「社会保障制度改革国民会議」新設を提言する。専門家の知恵は必要だが、与野党議員が胸襟を開いて議論し、決める責任を共有すべきだ。その経験がねじれ国会を乗り切る糧にもなる。
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